75. 時間 -side Yellow- ページ26
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それから、海の近くで海鮮を買って帰ってきた。
その海鮮をたっぷり使って、ふたりでペスカトーレを作った。
「いただきます。」
手を合わせて呟く。
『いただきます。』
一口食べてふわっと鼻腔をくすぐる磯の香りに、ふたりで歩いた海の景色を思い出した。
食後の休憩にずっと見れてなかったドラマの続きを見始めた。
「この人、誰だっけ?」
開始5分で出てきた重要人物っぽい人が思い出せなくて隣に座るAちゃんに聞く。
『取引先の人……じゃなかった?』
そう言われても記憶がない。
「あれ、そうだっけ。」
『ちょっと待って、自信なくなってきた。』
違うかもってAちゃんが苦笑いしながら言った。
「最初から復習しなきゃ駄目かもね。」
『ほんと、忘れ過ぎてて。』
結構ハマって見てたはずなのに、二人とも覚えていないのが不思議。
お休み中に時間作って最初から復習したいな。
結局、ドラマを見るのはやめておしゃべりして、先にAちゃんがお風呂に入った。
久しぶりにAちゃんの髪を乾かしてあげたいなって思って、ドライヤーとコームを準備してソファでAちゃんを待つ。
ガチャ
ドアが開いてリビングに入ってきたAちゃんに声をかける。
「俺が髪乾かしてもいい?」
『え、いいの?ありがとう。』
Aちゃんが嬉しそうに笑って言った。
「ん、おいで。」
ソファの隣をポンポンしながら言うと、Aちゃんがパタパタ来てソファに座った。
『お願いします。』
「はぁい。」
目の粗いコームでAちゃんの濡れた髪を優しく解いていく。
「髪伸びたね。」
『確かに。
初めて会った時、ちょうど肩くらいだったよね。』
華奢な背中にかかる髪の長さに、一緒に過ごしてきた時間の長さを感じた。
Aちゃんに声をかけてドライヤーで髪を乾かしていく。
水分で重くなっていた髪が、だんだん軽くなって指の間をさらさら流れていく。
眠くなってきたのかAちゃんの頭がゆっくり傾く。
舟を漕ぐ様子が無防備で、こんな姿が見れることに嬉しくなった。
それから、自分もお風呂に入って、Aちゃんが髪を乾かしてくれた。
ベッドに入っていつも通りどちらともなく自然に手を繋ぐ。
「おやすみ、Aちゃん。」
『おやすみ、優吾くん。』
悪い夢からAちゃんを守れたらいいのに。
すやすや眠るAちゃんの寝顔を眺めたいって思ってたのに、すぐ眠りに落ちてしまった。
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作者名:鞍月すみれ | 作成日時:2023年8月8日 18時