エンゼルランプ vol.2 (ページ25)

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74. 黄昏の海 -side Yellow- ページ25

-side Yellow-

くだらない話でひとしきり盛り上がった後、少し間が生まれた。
波の音に耳を傾けてると、

『優吾くん。』

Aちゃんの柔らかい声で名前を呼ばれた。

「んー？」

鼻にかかる声で返事をして隣を向けば、Aちゃんと目があった。

『私の居場所になってくれてありがとう。』

「なに急に？」

Aちゃんの少し真剣な表情に釣られて緊張する。

『ふふ、いい機会かなって。』

いつもより硬い笑顔にAちゃんの緊張を感じた。

『私ね、記憶喪失でひとりぼっちで、この世界に居場所なんてないんじゃないかって怖かったの。
　もちろん、遠藤先生、伊藤さん、カウンセラーの先生、看護師さんたち、いろんな人に助けてもらったけど、心のどこかで遠慮があったし迷惑かけてるってずっと思ってた。
　でも、優吾くんが居場所を作ってくれて、ここにいていいんだって思えた。
　生きていきたい、頑張りたいって思えた。』

一言一言丁寧に紡ぎ出される言葉を聞き逃したくなくて静かに耳を傾けた。
Aちゃんがふーっと長く息を吐いて、ふわっと笑う。
　
『だから、ありがとう。』

Aちゃんがすっきりした顔で言った。

「Aちゃんも、うちに来てくれてありがとう。」

もっと言いたいことは沢山あったのに、上手く言葉に出来なかった。

『なんか恥ずかしいんだけど。
　……もう日沈んじゃうね。』

気恥ずかしくなったのかAちゃんが話を逸らした。
視線を海に向ければ、水平線に赤い太陽がかかろうとしている。

「そうだね。」

ちらっと盗み見たAちゃんの綺麗な横顔が夕陽に赤く染まっている。
なぜか切ない表情に見えて、思わず頬に手を伸ばした。

『え？』

驚いたAちゃんがぱっとこっちを向いた。

「あ、ごめん。
　泣いてるみたいに見えて。」

我ながら意味不明だとは思うんだけど、Aちゃんはびっくりした後ふふって微笑んでくれた。
Aちゃんが視線を海に戻して、肩に優しくもたれかかってくる。

「なぁに？甘えただね。」

珍しいなと思って声をかければ、

『そういう気分なの。だめ？』

と上目遣いで聞かれた。

「全然。」

むしろ嬉しいよって口に出す代わりに、手を優しく繋いで、Aちゃんの方へそっと頭を預ける。
波の音に耳を傾けながら、夕陽がゆっくり沈む様子をふたり寄り添って眺めた。

またふたりでここに来たいって強く思った。