73. 砂浜 -side Yellow- ページ24
-side Yellow-
目的地に着いて、バイクを止める。
「着いたよ。」
と声を掛ければ、お礼を言ったAちゃんが慣れた様子でバイクから降りた。
続いて自分もバイクから降りる。
『えー、海!きれい。』
一足先にヘルメットを脱いだAちゃんが興奮した声を上げた。
「ほんと、きれいだね。
ここ慎太郎に教えてもらったんだけど、滅多に人が来ない穴場らしいよ。」
Aちゃんのヘルメットを受け取って、自分のと一緒にバイクのハンドルへかける。
近くの階段で堤防を越えて砂浜へと降りた。
はしゃいだ様子のAちゃんが波打ち際へと駆けよる。
あまりにも楽しそうで思わずスマホを向けた。
動画を撮りながらゆっくり追いかけて行くと、Aちゃんがしゃがんだ。
『優吾くん。』
Aちゃんが何かをじっと見つめたまま、手をちょいちょいと招いている。
「なにー?」
『こっち来て。』
顔を上げてこっちを向いたAちゃんがスマホに気づいて、戸惑いながらピースをした。
「これ動画だよ。」
『先言ってよ。』
「ごめんね。」
笑いながら謝った。
Aちゃんは元の用事を思い出したのか下を向く。
『見て。ちっちゃい蟹いるの。』
指の先を辿ると小さな蟹が見えた。
「ほんとだ。ちっちぇ。かわいい。」
しばらく蟹を眺めてから、散歩を再開しようと立ち上がった。
砂浜に足を取られたのか足が痺れたのかふらついたAちゃんを支える。
『ありがとう。』
Aちゃんに向かって手を伸ばす。
「手つなご。」
ふふって照れたAちゃんが手を重ねた。
『前、水族館の時もふらついて助けてもらったよね。』
「あったね。懐かしいわ。」
滅多にしない思い出話をしながら、Aちゃんと手を繋いで海辺をゆっくり歩いていく。
慎太郎に聞いていた通り、他に人はいなくて波の音とふたりの足音が心地よかった。
しばらくお散歩してバイクを置いた位置まで戻ってくる。
今度は50cmくらいの堤防に足をかけて登った。
繋いだAちゃんの手を優しく引き上げる。
ふたり並んで堤防に腰掛ける。
足元にはさっきまで歩いていた砂浜、その先に海が広がっているのが見えた。
持ってきたお気に入りの駄菓子とお茶を取り出す。
『なんか遠足みたい。』
「思った。こんなに景色綺麗なのにね。」
それも俺らふたりらしいのかな。
目の前の景色に似合わない駄菓子を食べながらお気に入りの駄菓子談義を始めた。
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作者名:鞍月すみれ | 作成日時:2023年8月8日 18時