50. 病室 -side Yellow- ページ1
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病院について、俺と樹が裏口を入るとすぐに看護師の伊藤さんに迎えられた。
「Aちゃん、こちらですよ。」
Aちゃんの病室に向かう間、伊藤さんが容体と経緯について詳しく説明してくれる。
Aちゃんが記憶喪失に関係する頭痛で意識を失ったこと。
Aちゃんが倒れてすぐに、パン屋の店長の藤間さんが救急車を呼んだこと。
Aちゃんが前もって藤間さんに記憶喪失のことや通っていた病院、緊急連絡先として俺の電話番号を伝えていたこと。
命や身体的には別状はなく、数時間で目を覚ますはずだってこと。
記憶が戻る可能性があること。
伊藤さんに続いてAちゃんの病室に入る。
その病室は静かで真っ白で、時が止まってるみたいだった。
静かに眠るAちゃんの寝顔はいつも通りなのに、嫌なことばかり頭に浮かぶ。
ああ、Aちゃんが目を覚さなかったら……。
縁起でもないことが頭をよぎって体が震えた。
「眠っているだけだから、大丈夫ですよ。」
不安が顔に出ていたのか、伊藤さんが安心させるように声をかけてくれる。
「ほら、お掛けになってください。」
と促されてベッドの脇の丸椅子に座った。
「じゃあAちゃんが目を覚ましたら、ナースコールで呼んでくださいね。」
そう言って伊藤さんが病室を出た。
病室には樹と俺、眠るAちゃんだけですごく静かだ。
俺はAちゃんの左手をそっと両手で包むように握った。
「高地、俺ちょっと売店行ってくるわ。」
と樹も病室を出た。
時が止まったかのような静寂の病室で二人きり。
言い知れぬ不安が足元を冷やした。
今までまじまじと寝顔を見ることなんてなかったから、新しい発見が沢山あった。
こんなとこにほくろあったんだとか、まつ毛長いなとか、おでこにニキビできそうとか。
全然違うことを考えてみても不安な気持ちは収まらなかった。
Aちゃんが記憶を取り戻したら、俺は。
Aちゃんがうちから出て行ったら、俺は……。
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作者名:鞍月すみれ | 作成日時:2023年8月8日 18時