エンゼルランプ vol.1 (ページ5)

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04. 名前ページ5

記憶喪失だって分かってから、色々質問された。
どうやら「逆行性健忘」と呼ばれるものらしい。
記憶力に問題はなくて、日常生活に必要な情報も残ってる。
ないのは自分に関する記憶だけ。
私って何者なんだろう。

心臓の周りがすっと冷えた感じがした。

担当の看護師の伊藤さんが優しく話しかけてくれる。
テレビつけます？とかご飯食べましょうか？とか雑誌あるけど読みます？なんて定期的に来てくれるから、落ち込みすぎずにすんでいる。

コンコンってノックの音が病室に響いた。
また伊藤さんが来てくれたのかなって思いながら、返事をした。

「失礼します。」

聞こえてきたのは男性の声ふたり分。
遠藤先生に続いて、優しそうな男の人が入ってきた。

「えっと、はじめまして、でいいのかな？
　高地優吾です。」

目があって、くしゃっと笑った。
心がふっと浮くような感じがした。

「事故の後、救急車を呼んでくれたんですよ。」

って遠藤先生が紹介してくれる。

『ありがとう、ございました。』

とお礼を言えば、

「いーえー。」

ってゆるい声が聞こえてきた。
高地さんはあ、そうだって呟いてポケットを探ると銀の指輪を取り出した。

「これ、事故のときに拾ったんです。」

と渡してくれた指輪は小さくて、チェーンが通してあった。
よく見ると内側に名前が彫ってある。

『A？これが私の名前なんでしょうか？』

あまりしっくりこないけど、すごい違和感がある訳でもない。

「その可能性が高いと思います。」

と遠藤先生が深く頷いた。
それから、体調のことを遠藤先生と軽く話した。
何かのヒントになればと日記をつけることとカウンセリングを受けることを決めた。

「じゃあ、僕は次の患者さんのところへ行かなきゃいけないからごめんね。
　色んな人と色んな話をした方が刺激になるから、Aさんが疲れてないようなら高地と少し話をしてみて。」

と言って遠藤先生は病室を出た。
二人きりで気まずいかなって思ったら、すぐに高地さんが話を切り出してくれた。

「俺、遠藤先生？と中学の同級生なんだ。」

そこから遠藤先生の中学時代の話、事故の話、高地さんの友人の面白エピソードなどを聞いた。
私は記憶喪失で特に話せることもないし、気を使ってくれたみたい。
高地さんの声が心地よくて、不安に思う気持ちが少し薄れた。