ガラスの靴は一足で。２【JW 赤×緑】

番外編 #03 ページ24

外の光が入ってくる気配で目が覚めた。

随分と懐かしい夢やったな。
未だ脳裏に強く残る、初めて見たしげの笑顔。
わかりやすく恋に落ちた俺は、あれから夢中で漫画を描いた。
名前も知らない、それどころか漫画部じゃない可能性まであって、もう一生会えないと思っていた相手が今、目の前にいるなんて。

「んふふ、気持ちよさそうに寝とることで」

いつも早起きなしげは、俺の隣でまだ眠ってた。
珍しいこともあるもんやなぁ、となかなか見られない彼の寝顔を堪能する。
しげに向き合うように寝返りを打って、そのままきゅっと彼に抱きついた。
…しげ、子供体温やから眠くなるわ。
あどけない寝顔は昨日の格好良さからじゃ想像つかへん。笑

昨日。
しげと付き合って一年の記念日。
三ヶ月くらい前から文庫本の部署に移動になって忙しくしてたし、元から記念日とかあんまり気にしない人やと思ってたから完全に期待してなかった。
俺も俺で、やらなかあかんことはたくさんあったし。

…やのにさぁ、ずるいよなぁ。

お揃いのペアリング。
一年間ありがとう、これからもよろしく。
なんて俺の大好きな笑顔で言われてしまったらもう、頷くしかないわけで。
実は男前なところ、でもこういうカッコつけて何かをすることが苦手ですぐ照れちゃうところ、全部全部好きで。

俺多分、しげが思ってるよりずっとしげのこと好きやで。

少女漫画でしか恋愛を知らないような俺が、どうやったらしげに好きになってもらえるか毎日悩んでたこと、知らんやろ。
七秒目を合わせたら一目惚れさせられるって噂を信じて見つめてみたことも、しげの言うことに一喜一憂したことも、勇気出して壁ドンしてみたことも。
…そのお返しにしげから壁ドンしてきたのは予想外すぎて、心臓破けちゃいそうやった。笑

未だ気持ちよさそうに眠る彼の寝顔を眺めながら考える。
一目惚れと言っても、多分それは顔だけじゃなくて。
なんで好きになったんやろ、って言うとなんだか後悔してるみたいやけど。
なんならしげの全部が好きやけど。

結局は、運命って言葉に落ち着くんかな。

「さむっ」

自分で考えておいて、あまりにも寒い言葉。
もう、と俺の考えてることはしげに聞こえないけど、照れ隠しに彼の頭を軽く小突いた。

スマホの時計を見れば、そろそろ活動するべき時間。
しげにそっと口づける。



たまには王子様への目覚めのキスも悪くないやろ？



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【ガラスの靴は一足で。番外編／fin】

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