ガラスの靴は一足で。２【JW 赤×緑】

#48 ページ18

「昨日の夜、ともの家に行ったの。…怒られてもうた」
「え？」

予想外のその言葉にちょっと驚く。
確かに、神ちゃんにとって彼は王子様ではなくて。
やけどそれと怒るという行為が結びつく理由ってなんや…？

「淳太の人生なんやから、淳太がしたいことをしなさい、って」

したいこと、考えた上でとものこと振り向かせるために頑張ったんやけどなぁ。
そう言って下げた眉の角度が、あまりにも神ちゃんと同じで。
一緒にいた二人の時間の長さを思い知る。

「小さい頃からともの王子様になれるように頑張ってきてん。運動は残念ながら成果残せなかったけど、できることは全部した」

ふぅ、と小さなため息。

「日本に戻ってきたのもやっぱりとものためって思いやし。まぁ別に好んで海外生活をしたいわけやないけど…、駄目やなぁ」
「…俺は、かっこいいと思いますけどね」

だって、今更俺は俺の生き方を変えられない。
好きな人のために人生捧げる勢いでアプローチするってなかなか男らしくて、潔くて、かっこいい。

「…ありがとう」
「それに神ちゃん、香水つけてましたよ」

“これ、お土産やねん。俺が側に居らんくても、匂いで思い出して？って…漫画みたいなこと言いよってさ”

そう言って笑った神ちゃんの表情は、どこか愛しいものを見るような暖かなそれで。
恋愛感情ではなくても、淳太さんのこと、大切なんやと思う。

「…そういうところがあの子のずるいとこやねんな」

もう。
ちょっと怒ったように、淳太さんは苦笑い。

「ちゃんと突き放してくれればええのに。俺が日本帰ってきて、あの子に恋人居ったら諦められたのに」

何も言葉を返せなくて。

「ごめん。こんなこと言いたかったんやなくて」
「ああ、いえ…」
「ちゃんと振られたから。安心して、って話」
「え、？」
「重岡くん、わっかりやすいねんもん」

…ああでも。
彼の特徴的な唇が緩やかに弧を描く。

「諦め悪いねん、俺。また修行して出直してくるから、そん時はよろしく」

空いたコーヒーのカップをクシャリと潰すと、淳太さんは席を立つ。
いつもの、神ちゃんとお揃いの甘い香りがふわりと舞った。

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