ガラスの靴は一足で。【JW 赤×緑】

#04 ページ4

野菜と肉、それにお菓子、という家族連れみたいなラインナップの袋。
一つしかないから、俺が責任持って運ぶ。(曰く彼はペンより重いものは持てへんのやと。)

「お菓子多すぎるんちゃん？」
「一週間分やもん。糖分なきゃ頭働かんやろ？」

結局、神ちゃん呼びやし、しげ呼び、かつタメ口。
なんならちょっと失礼なことも言った。言い返されたけど。

「あ、帰ったら洗濯も回してなー？」
「はいはい。神ちゃん、一人で生活できひんやん」
「んー？出来るで。やらないだけ」

それ出来ない奴の典型的な言い訳やん、というツッコミは彼の顔を見たら消える。

「……」

またや。
ここではないどこかを見ているかのような表情。
彼が急に黙り込むことは買い物の途中にも何度かあった。
ほんまに周りが見えていないんか、ふらふらとおぼつかない足取り。
スーパーでも少しヒヤッとしたけど、道端でやられると余計に危なっかしい。
…今、彼の中では物語が動いているんやろか。



王子様を待っているのだと彼は言った。
王子様、というのは冗談半分、本音半分。
豚肉のパックを手に取りながら彼は言葉を紡いだ。

“少女漫画が好きになったきっかけはおねぇから借りた一冊の漫画。”
“俺にもその漫画みたいに運命の人が迎えに来てほしいと思うようになった。”
“今自分が描いてるのはそんな願望の具現化。”
“好きな人に思い焦がれて、たまに空回りして。やけど、絶対この人しかいないって二人ともわかっているような恋。”

そんな綺麗な恋、そう簡単にはない。
告白されたから何となく、で付き合ってきた俺にとって、神ちゃんの理想は現実的やないように思える。
好きな人が同じように最初から自分のこと好いてくれるなんて、そうそうあることやないからなぁ。

ふわふわと左右に揺れる彼の身体を見つめる。

「…あ、ちょっ、！」

鈍い音がする前に。
俺は彼を強く引き寄せた。

「、しげ…？」
「何やってん！電柱！正面衝突するところやった！」
「…ごめん、」

抱きとめるようにした俺の腕の中で、身長差なんてそないになくて、驚くほどに近くて。

「っ、」

綺麗な瞳。
至近距離で見つめられて、自分が動揺したのが明らかにわかる。
目が離せない。
唇に吸い寄せられそうになって、止まる。
いや、ほんま俺何してん。今日まじでおかしいって。

「…きゅん、やね」
「あほ、ちゃんと前見て歩いてや」

いたずらっ子のように微笑んだ表情にときめいたなんて、そんなんおかしい。

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