ガラスの靴は一足で。【JW 赤×緑】

#21 ページ21

「小瀧、何かお勧めの漫画ない？」

翌日。
やっぱり少女漫画の知識は蓄えたほうが良いという結論に至った。
俺も、神ちゃんと好きを共有したい。

「それは“小瀧が好きなお勧め”ですか？それとも、“神山先生と語るためのお勧め”ですか？」
「……」
「ま、どちらにせよ返答は同じですけど」

そう言って小瀧が挙げたのは、少女漫画に疎い俺でも聞いたことのある有名な作品。

「神山先生が漫画家になるキッカケの本で、俺もすごく好きなやつです。…貸しましょうか？」
「何から何までほんまにありがとうございます…」
「高くつきますからねー？」

小瀧は笑って席を立つ。

「重岡先輩、今日奢りで」
「…はい」

高くつくのが早いのよ。


・


…いや、人の金だからっていつもより高いのを頼むな。

「重岡先輩ってやっぱりわかりやすいですよね」

特上日替わり(通常より200円増し)を頬張りながら、彼はそう呟いた。

「漫画も、大方神山先生と俺の話が弾んだって聞いて焦ったんやろ？わかりやすいわぁ」
「お前まじで先輩舐めすぎ」

当たってるのがまた悔しいところ。

「でも、神山先生も大概ですよ。三日間、“しげ、何してるかなぁ？”“ちゃんとご飯食べてるかなぁ？”ってずっと言っとりました」
「俺的にはちゃんとご飯食べてるか心配なのは神ちゃんやねんけど」
「はいはい」
「ほんまにお前さぁ…」

ふざけて軽く振りかぶると、ひぃ！と情けない声を上げて躱す彼。

「……先輩。公私混同、しちゃダメですからね？」
「、そんな柄じゃないやろ」
「さぁどうだか。少なくとも、今は神山先生に首ったけって感じですけど」

わかってる。
俺のこの一ヶ月くらい、全部神ちゃん中心に回ってること。
やけどそれで俺は幸せやし、何も問題ないわけで。

「俺は、神山先生の描く作品がすごく、すごく好きです。…単刀直入に言いますね」

神山先生の世界観を壊さないでほしい。

「それって、」
「俺は…重岡先輩が神山先生の理想の“王子様”だとは思えません」

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