ガラスの靴は一足で。【JW 赤×緑】

#11 ページ11

「先輩ってほんまわかりやすいですね」
「うおっ、！？」

向かいのデスクからニョキっと顔を出したのは小瀧。

「何やねん急に」
「いやー仕事中らしからぬ頬の緩みでしたから」
「別にそんな、」
「職場内に居るんや、重岡先輩の想い人！」
「ちょ、おま、声大きい…！」

同世代の好奇の目、上司の冷たい目。
いや、仕事してないの俺やなくて小瀧…。

「社内メールっすか？」
「違う。別にニヤついてへん、元からこんな顔や」

…まぁ嘘なんですけど。

パソコンの画面に表示されているのは神山センセからのメール。

『お疲れ様です。
頂いていた新連載の件ですが、原案完成しました。
添付ファイルをご確認ください。

p.s. 描いてて思ったんやけど、重岡さん歯が多いですね。笑』

さすがにニヤつくやろ。
よそ行きの敬語も重岡さん呼びも、やのにくだらんことをメールに添えるところも、いちいちずるいねん。

“しげ、何枚か写真送ってきて。真顔と喜怒哀楽揃ってると嬉しい”

そんなメールが来たのは今日の朝4:30。
…彼にとっては昨日の夜かも知れへんけど。
さすがに俺は起きてないから、起床後、それなりに身支度を整え、送ったのは7:00過ぎ。(手本になる写真が寝癖だらけというのはさすがに嫌やった)
行動に移すのが早くていらっしゃる。
この12時間の彼の行動を想像するとゾッとしなくもないけど…。
朝ご飯も昼ご飯も作っておいたから、うん、食べてくれていると信じるのみ。

「…すっご、」

添付ファイルを開くと、そこに現れたのは“神山とも”のタッチで描かれた俺…ってそれは当たり前か。
高校生の設定らしく、人となりや交友関係、制服のデザインが細かくメモされている。
明るくて友達が多くて、とプラスな設定から、朝起きれないとか(どっちかというと神ちゃんやん)、寝癖を直すのが下手とかの欠点も。
得意料理は豚ニラ炒め…や、間違ってませんけど。
ヒロインの子も同様に丁寧に描写されていて、俺(厳密に言うと違うけど)にはもったいないくらい。
ほんまに俺をモデルに漫画描いてくれたんや…。
改めてその事実を思うとまた口元がにやけそうになって。

「仕事仕事、」

わざとらしくそう呟いてスイッチを切り替えた。

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