#37 ページ37
「ほんまにありがとう、来てもらって。来るなら今晩やねん」
「…その根拠は」
「明日あっちの誕生日」
その言葉に頷く。
まぁ確かに、あちらさんとしては決着をつけるタイムリミットみたいなものか。
0時ぴったりにピンポン来たりして、というのはあまりにリアルで言うのが憚られた。
「都合、きっと無理やりつけてくれたんよな。ごめん」
「大丈夫です。さすがに乗りかかった船やし、先輩にはお世話になっているので」
ほんまはスルーしようとした連絡は、その後に付け加えられた一文で開くことになった。
“今日だけまた恋人のふりしてほしい。緊急事態。”
先輩の身に何かあったらどうしようって、胃の辺りがぎゅっとなった。
「…空振りやったらごめんな」
「そんときはそんときですって。それに、来ないに越したことはないから」
「うん…」
「そんな捨てられた犬みたいな顔…!この前は俺が酔って迷惑かけたんやし、もう、お互い様ってことにしましょう。そっちの方が俺も助かります」
さらっと口にして、罪を洗い流す。
なかったことにはしないけど、これ以上話すこともないので水に流してください。
言外のメッセージはたぶん、ちゃんと先輩に伝わる。
「そぉやな、うん、ありがと。気ぃ抜けたらお腹空いてきた。一人やとさぁ、ちょっと、な」
「何か作りますか?」
「え、ほんま?冷蔵庫何があったかな」
かなり気を張っていたんやと思う。
ようやっと緩んだ表情を見て安心する。
俺は幸にして、男運最悪なくせにこういうパターンに巻き込まれることはなかった。
むしろ皆、軽すぎるくらいに軽くて他に相手作って出て行くパターン。(あ、何か今思い出しイラっと)
「卵ー、と、玉ねぎ…あ、ソーセージある。ご飯は冷凍が何個か」
「ならわりと何でもいけそうですね。オムライスとか?」
「食べたい!」
こうしてると、切なくなるくらい自然。
先輩との日常が過去にも未来にも地続きにあるような。
実際には、あの一ヶ月は白昼夢みたいな非日常やったのに。
「もし良かったら、お風呂入っててください。すぐできるはできるけど」
「あーお言葉に甘えようかな」
キスしたい、って思わなかった。
いやなんていうか、うん、あんなに衝動的な気持ちは収まって、でもやっぱり先輩が好きって気持ちは消えてなくて。
ただ、もうこれで十分。高望みしちゃいけない。そんなふうに思った。
523人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ナナセ(プロフ) - あさん» コメントありがとうございます。完結まで漕ぎつけられたのはあさんを始め、たくさんの方が読んでくださったおかげです!最後までお付き合いいただきありがとうございました☺️ (8月22日 9時) (レス) id: 775b763c2b (このIDを非表示/違反報告)
ナナセ(プロフ) - ゆきのさん» コメントありがとうございます。赤さんは途中から💚さんへの気持ちに自覚が出てきたので、だんだん会いたいだけで誘うようになったし、キスもそういうことです🙊 最後までお付き合いいただきありがとうございました! ぜひ次回作もお付き合いくださいませ! (8月22日 9時) (レス) id: 775b763c2b (このIDを非表示/違反報告)
ナナセ(プロフ) - foolさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまって申し訳ありません💦 緑さん可愛いファンクラブ(自称)なので嬉しいですー! (8月22日 9時) (レス) id: 775b763c2b (このIDを非表示/違反報告)
あ - 初コメ失礼いたします。完結おめでとうございます!緑くんの恋が実って良かったです😭今回も素敵な作品ありがとうございました! (8月21日 20時) (レス) id: f17f5e7704 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきの(プロフ) - もともと緑くんが好きだったから、見えない所でも恋人っぽく振る舞ってたのかと思いきや、天然だったのはちょっとビックリ。罪な男…!付き合い始めて、青くん達にも紹介したんだろうなとか、色々妄想したくなっちゃいます。次回作も楽しみにしています。 (8月20日 1時) (レス) id: 22105fbc41 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ナナセ | 作成日時:2023年7月14日 22時