#35 ページ35
「せんぱい、」
ごくん、と唾を飲む音がした。
「神山さぁ…もう、ほんまに…」
多分さっきの飲み会、先輩はそんなに飲んでなかった。
俺よりも早いペースで(多分人並み) 缶を何本か開けた先輩は、職場よりずっと緩んだ顔をしている。
「なんですか」
「…普段、神山あんまりお酒飲まへんやろ？それって甘えたになっちゃうから？
まるで握ってくださいとでも言うかのように二人の間、中途半端に放り出された俺の手を先輩はじっと見つめる。
「こういうギャップ、男はすぐ可愛くてたまらんって思ってまうから。気ぃつけて」
普段はこんな酔い方しません。心の中で答える。
可愛さなんてない、眠くなって記憶飛ばしてそれで終わり。
その過程で世間的に見たら過ちと言えるような人間関係を築いてしまうこともあるけど、それはまた別の話で。
先輩やから、先輩に触れられたいから。
先輩さえその気になれば、始め方はなんだって構わないし、始まらなくてもいい。
俺の恋はいつもそんなんで、明確なスタートラインなんてないから、別に。
ただもう一回だけ、って頭の中はそればっかり。
「かわいくない、です」
真っ直ぐ先輩を見つめる。
心臓がバクバク言ってうるさかった。
もうどうでもいいって思うのに、どうなるかアホみたいに緊張してる自分がいて。
「はぁ……」
先輩の手が俺の頭を優しく撫でる。
それでも期待した距離にはならない。
「男心わかって。もう少し、危機感も持って」
見つめ返されて、動揺して目を逸らしてしまう。
「……あ、」
「なに？」
下ろした視線の先、先輩の体は1ミリだって反応してない。
そうよな、口では可愛いって言ったって男相手にどうこうなんて、頭も体も想定しないよな。
「…きす、してください」
やっぱり異動願くらいはありかもな、とか。
もうこんなわがままごっこ、やめなきゃって思うのに。
ブレーキなんてどこかにいってしまったみたいに口は動く。
「もう…さっきの話聞いてた？」
「聞いてた。でも、ちゅーしたいです」
「…キス魔なん」
「わからん。あんま覚えてない」
口から出まかせ、もうどうにでもなれ。
「せんぱい、」
「なら誰でもええってこと？」
咎める視線が痛いくらいに刺さる。
「誰でもや、ないです…」
「酔い覚まして、な？」
頬が先輩の手に挟まれる。
冷たい。それだけで自分に確かにアルコールが回っていることを自覚する。
「……先輩」
「神山はもしかしたら忘れちゃうかもしれへんけど。…もしさっきの、キス、したいとかそういうのが全部本心なら、酔ってない時に言って。素面の時に、な？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 523人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ナナセ(プロフ) - あさん» コメントありがとうございます。完結まで漕ぎつけられたのはあさんを始め、たくさんの方が読んでくださったおかげです！最後までお付き合いいただきありがとうございました☺️ (8月22日 9時) (
レス) id: 775b763c2b (このIDを非表示/違反報告)
ナナセ(プロフ) - ゆきのさん» コメントありがとうございます。赤さんは途中から💚さんへの気持ちに自覚が出てきたので、だんだん会いたいだけで誘うようになったし、キスもそういうことです🙊 最後までお付き合いいただきありがとうございました！ ぜひ次回作もお付き合いくださいませ！ (8月22日 9時) (レス) id: 775b763c2b (このIDを非表示/違反報告)
ナナセ(プロフ) - foolさん» コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまって申し訳ありません💦 緑さん可愛いファンクラブ(自称)なので嬉しいですー！ (8月22日 9時) (レス) id: 775b763c2b (このIDを非表示/違反報告)
あ - 初コメ失礼いたします。完結おめでとうございます！緑くんの恋が実って良かったです😭今回も素敵な作品ありがとうございました！ (8月21日 20時) (レス) id: f17f5e7704 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきの(プロフ) - もともと緑くんが好きだったから、見えない所でも恋人っぽく振る舞ってたのかと思いきや、天然だったのはちょっとビックリ。罪な男…！付き合い始めて、青くん達にも紹介したんだろうなとか、色々妄想したくなっちゃいます。次回作も楽しみにしています。 (8月20日 1時) (レス) id: 22105fbc41 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ナナセ
| 作成日時：2023年7月14日 22時
