貸切列車【JW 赤×緑】

#21 ページ21

東京行きのチケット二枚、28100円。
検索してはハッとなってやめ、また検索をし。
そんなことを数日繰り返していると金額も空で言えるようになってしまった。

「大ちゃん、衣替え手伝ってー」

台風と共にともの頭痛も過ぎ去った。
部屋までまっすぐ届いた声に返事をする。

「はーい今行く」

28100円。
30時間働いたら自由が手に入る。
いやいっそ、とものために貯めていたお金を下ろせば今にでも。

「なぁこれ今年も着るかな？」
「去年のお気に入りやん。着たらええよ」
「ちょっと若すぎひん？」
「高一と高二で何が変わんねん！かわええ、似合うって」

うーんと思案顔のとも。
俺と違っておしゃれ好きやから、きっと流行りがどうとか考えているんだろう。

「28100円」
「は？」
「そのお金、ぽんって渡したらとも、何したい？」

変なタイミングで言ったのはもちろんわざとで。
これで、好きな服思う存分買いたいって言われたら俺、ちゃんとまともな考え取り戻せるかもって期待した。

「…なんで28100円？」
「いや、適当」
「そーなん？キリ悪いから財布でも拾ったのかと思ったわ。交番届けなあかんで」

そういうんやないねん。
真面目な顔したともがおかしくって思わず笑ってしまった。

「なぁ、今日は贅沢してすき焼きにしよ」
「まだそこまで寒くないやん」
「28100円分の肉買って、すき焼きしよや。俺の奢り」

諦めさせて。
今、東京行きのチケットをビリビリに破かせて。
そう、思ったのに。

「だーめ。大事なお金なんやから、もっと使い方考えなあかん」

大して痛くもないデコピン。それがともの答え。

「何か嫌なことあったん？美味しいもん食べて忘れるのもええけど、三万弱を一晩で使うのは勿体ないで」
「嫌なことあったわけやない、けど…」
「けど？」

言い淀む俺を見かねたのか、ともは小さく笑った。

「そんな大金使われへんけど、せっかくやから買い物行こ」

それ自分が服欲しいだけちゃう？なんて、安心させたくてわざとちょけて呟いた。

#22→←#20

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す