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#02 ページ2

「おかえりなさい」

煮物のあったかい香りが鼻をくすぐる。
バイトでへとへとになった体を扇風機の微風が撫でた。

「ただいま」
「外暑かったやろ?シャワーやけど、先入ってきたら?」
「うん、そうする。ありがとう」

新婚さんみたいな会話。
エプロンをしてキッチンに立つともの後ろ姿を眺める。

「オトンは?」
「いつも通り。夕飯いらんて」

仕事が忙しいからと、ほとんど帰って来なくなったのはいつからやっけ。
思わず眉間に皺が寄ってたのか、ともは小さく笑う。

「今日はほんまに仕事。夕方資料取りに帰ってきたときに言うてから。あの人、昔から嘘つくと顔に出るもん」
「そっか…」

じゃあメールで連絡来る日は、なんてもうわかりきってるし。
部屋着がわりにしてる中学校の頃のジャージを手に取って脱衣所に向かう。



「「いただきます」」

俺ら二人の食事と、ラップのかかった一人分の食事。
見慣れた光景に手を合わせて、ともの作った料理を口に運ぶ。

「うんまっ、ほんまとも天才」
「褒めても何も出てこぉへんで」

この部屋にいると、世界に俺とともしか居らんような不思議な気持ちになる。
寂しいとか心細いとかやない。
むしろ少し感じる息苦しさが心地よい。

「ご飯粒ついてる笑」
「え、うそ」
「ちゃうちゃう、右」

ペタペタと頬をたどってる間に、もどかしいと言わんばかりにともの手が伸びてきた。
当たり前のように米粒を掬って、口元に運ばれる細くて白い指。

「大ちゃん、子供みたい」
「うるさ、ちょっとしか歳変わらんくせに生意気や!」
「今は同い年やで?」

減らず口め。俺なんてあと一ヶ月したら大人やねんで。
ともの買えへんあんなものやこんなものだって買えるようになるねんで。
俺は誕生日来たらドンキの暖簾くぐるって決めてるからな!

「言い返されへんねや?」
「お子ちゃまなとものために負けてやっただけですぅ」

おにーちゃん、やから。
教育上よろしくないことは言わへん。

「…大ちゃん、高校卒業したらどうするん?」
「おぉ何や急やね」
「隣のおばちゃんとこの息子さんは、東京の大学受けるんやって。大ちゃんもうち、出て行ってまうの?」
「なぁに泣きそうな顔してんねん」

ともの眉がきゅって不安そうに下がるたび、俺は何も言えなくなってしまう。

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ナナセ(プロフ) - 7129さん» お返事遅くなってしまってすみません💦 コメントありがとうございます。ぜひ最後までお付き合いくださいませ◎ (2022年10月27日 17時) (レス) id: 4f931bc539 (このIDを非表示/違反報告)
7129(プロフ) - ナナセさん!待ってました〜🙌読み始める前から胸がぎゅんぎゅん締め付けられてます…月水金、楽しみにしてます!!! (2022年10月25日 22時) (レス) @page4 id: f02b13cfb6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ナナセ | 作成日時:2022年10月24日 14時

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