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2010年
「遅刻すんでー!」
「大ちゃん待って、」
玄関口から叫ぶと、慌てたような声。
スクールバックを壁にがこがこぶつけながらともが飛び出してくる。
「まだ日焼け止め塗ってないねん」
「おーじゃあ荷物持っておくから」
教科書が詰まったスクバはずっしりと重い。
手に取った日焼け止めをほっぺに鼻に、くるくる塗りつける姿を見つめる。
俺と違って焼けると赤くなってしまうともには、日焼け止めは必須アイテムや。
「よし、おっけい」
「ほーいじゃあ行くで」
行ってきます。
寝ているであろうオカンに小さく声をかけて、ドアを開ける。
夏特有の青い草の香りがした。
「遅刻しない?大丈夫?」
「だいじょーぶ。しっかり捕まってて。速度上がるから」
二人乗りの自転車は、下り坂を転げ落ちるように走っていく。
ブレーキいっぱい握りしめてる余裕なんてない。
代わりにともが、痛いくらいに俺のこと抱きしめてるけど。
「ちょっと、大ちゃん!転けたら死ぬ!」
「ならあと10分早く支度せぇ!」
風の音を切りながら、ともが耳元で叫ぶ。
「意地悪。大ちゃんが先に洗面所使うんが悪いんやん。トイレもいっつも占拠するし。俺の支度が遅いんやない」
声のトーンからして膨れっ面してるんやろな。
「3回声かけなきゃよう起きひんともに文句言えるん?」
「……ぐぅ」
ぐうの音だけかろうじて出した彼は、それから黙りこくってしまった。
可愛い弟。一歳しか変わらないのに、何故こんなにも愛らしいのか。
・
大学受験を控える生徒が半数以上を占める教室は、やけに殺伐としている。
受験の天王山と呼ばれる高三の夏休みが間近に迫って、焦ってる子も多いんやろな。
そんなん関係ない俺はあくびを噛み殺すだけ。
ぼーっとグラウンドを眺めていると、ともの姿を見かけた。
サッカーボールに翻弄されて、わたわた走り回る姿がボールに戯れる猫みたいで笑える。
口元をノートで隠しながら笑みをこぼすも先生には見咎められて。
「重岡、外見てニヤニヤしてないで黒板を見なさい、黒板を」
「うわー!誰見てたん?」
クラスメイトの冷やかす声に、弟だと素直に答える。
そうすると面白くないと言わんばかりの“ちぇー”が返ってきた。
あ。とも、こっち気づいた。
ボールを抱えて手を振る彼に俺もそっと左手を挙げて返す。
綺麗に染まった金髪が、太陽の光を浴びてきらきらしてる。
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ナナセ(プロフ) - 7129さん» お返事遅くなってしまってすみません💦 コメントありがとうございます。ぜひ最後までお付き合いくださいませ◎ (2022年10月27日 17時) (レス) id: 4f931bc539 (このIDを非表示/違反報告)
7129(プロフ) - ナナセさん!待ってました〜🙌読み始める前から胸がぎゅんぎゅん締め付けられてます…月水金、楽しみにしてます!!! (2022年10月25日 22時) (レス) @page4 id: f02b13cfb6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ナナセ | 作成日時:2022年10月24日 14時