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#31 ページ1

『信じてたのに…俺はずっと、相棒として、頼りにしてきたのに…』

俺が今まで積み重ねてきたと思った絆はなんだった?
自分たちが信じる正義を貫くために、たくさんのことを乗り越えてきたのに。
床に押さえつけてもなお、彼は動揺一つしない。

『はっ、俺はお前のこと、相棒だなんて一度も思ったことないよ』

その時、一番に感じた気持ちは怒り。

“俺はしげのこと、番だなんて一度も思ったことないよ”

もし仮にそう言われたとしたら。
たとえそれが本心やなくても、俺は感じたことのない怒りを覚えていたと思う。

『っ…!』

鈍い音がスタジオに響いた。

「カット!!」

怒り。
自分の独りよがりな考えに、共に歩む彼の感情を一切理解していなかったことに。

「しげ…、大丈夫?」

戸惑った神ちゃんの視線は、俺の拳に向けられる。
神ちゃんの顔のすぐ近く、床に思い切り打ちつけたその拳から、わずかに血が滲んでいた。

「ん、こんくらい平気よ。…って、ごめん、離れるわ」

慌てて神ちゃんの上から退いて、距離を取る。
スタッフさんが持ってきてくれた消毒液を受け取って、軽く傷口を手当てする。
ヒリヒリと熱を持った拳には、ちっぽけすぎる絆創膏。

「神ちゃん、やっぱり避けんかったね」
「それ言うたら、しげは殴らんかった。しかも、事前の申告もなしに」
「…うん、ごめん」
「俺が受け止めるって言ったから?」

半分イエスで半分ノー。
ずっと、神ちゃんが受け止めると言った時から色々考えていた。
受け止めるなら、殴るんか。
そもそも俺の役は本当に彼に手をあげるんやろか。
本当に色々考えて、それで。

「俺も、自分の演じる役は殴らへんと思った」

何も言わず、悪役を引き受ける彼。
相棒からの怒りも、拳も、受け止める彼。

「裏切られたって感じても、どこかでそれを認めたくない自分が居ると思った。ずっと、隣を歩いてきて、簡単に気持ちを消化できるわけないやんか」
「…うん」
「拳を受け止める彼に相応しい相棒って、俺は信じ続ける相棒やないかなって思う。同じ熱量で、温度で寄り添うには、信じるって選択しかないと思う」

やから、一瞬で沸きたった感情は、過去への不安や揺らぎであって、目の前の彼へ宛てた怒りではない。

#32→



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ナナセ(プロフ) - いか天太郎さん» コメントありがとうございます☺ こちらこそ、拙作にお付き合い頂きありがとうございました!ぜひこれからもお付き合いください〜😍 (2022年2月10日 10時) (レス) id: 4f931bc539 (このIDを非表示/違反報告)
いか天太郎 - 完結おめでとうございます。一気に拝読させて頂きまして、今、ため息しか吐けません。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2022年2月8日 6時) (携帯から) (レス) id: f6711a1d35 (このIDを非表示/違反報告)
ナナセ(プロフ) - しずくさん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、とても励みになります😊 拙い作品ばかりですがぜひこれからもこれからもお付き合いくださいませ◎ (2022年2月4日 11時) (レス) id: 4f931bc539 (このIDを非表示/違反報告)
ナナセ(プロフ) - stcさん» コメントありがとうございます!番外編も前向きに検討したいと思います☺最後までお付き合いいただきまして本当にありがとうございました! (2022年2月4日 11時) (レス) id: 4f931bc539 (このIDを非表示/違反報告)
しずく(プロフ) - ナナセさんの作品がめちゃめちゃ大好きで連載が始まるたびに歓喜しておりました。今回の作品も毎日楽しみにしながら苦しくてドキドキして、最後幸せな気持ちで読み終えることができました。いつも素敵な作品をありがとうございます。これからも応援しています! (2022年2月3日 21時) (レス) @page32 id: c3e8ccce2f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ナナセ | 作成日時:2022年1月8日 11時

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