Le miel. ２【JW 赤×緑】

#53 ページ23

「おかえり」
「ん、ただいま」

シュウの荷物がなくなったって、この部屋はそう簡単に空っぽにならない。
俺と大毅のものがあまりにも多すぎるから。

「シュウ、泣いたで」
「ほんま？」
「うん、ボロ泣き」
「うわぁ、それはちょっと嬉しいわ」
「誓約書書かされて帰ってきた。また遊びに来ますって。笑」

シュウをお姉さんの元に送り届けるのは大毅に任せた。
俺とうちの玄関で別れる時には既に、涙目やったもんな。
でも泣かへんって、唇ぎゅっと引き結んでるの、可愛かった。

「…で。一生のお願い、聞いてくれるってことでええの？」
「……うん」

頷くと、大毅と初めてのデートで買ってもらったピアスが耳元で揺れた。



“もう一生会えへんのやろ？”

昨日。
大毅は声のトーンをあんまり変えないままそんな言葉を口にした。

“シューアイスも買いに行きたいけど、再会したら俺何しでかすかわからん”
“え、そんな怖いこと言わんとってよ”
“ふふ、半分冗談で、半分本気。”

それ以上深くを聞くつもりはなかった。
やって、言われなくてもわかる。俺も同じやから。
俺も、きっと大毅とまた出会ったら過ちをおかしてしまう。

“会えへんのなら、今ここで一生のお願い使っておいた方が得かなって”
“得とか損とかの話ちゃうと思うけど”
“明日、デートして。一日だけ恋人として、最後のデート、してや”



鍵をかけた手はそのまま、大毅の手に誘拐された。
パズルのピースがはまるみたいにぴったり収まる俺たちの手。

「どこ行くん？」
「どこやと思う？」

質問を質問で返すなや。
俺のツッコミを嬉しそうにへらへら笑ってかわして、運転席に迷わず乗り込む。

「とも、助手席な」
「ん」

少しだけ予想がついてた。
ある意味最後に相応しい場所。

「…映画、大毅の好きなのでええよ」
「ええの？」
「うん。俺の見たいやつにしたら寝るもん、絶対」

バレてたか、って大毅が。
バレるに決まってるやろ、なんなら上映中にちょっと寝息聞こえてた。

「そんなん言うたら、俺が見たい映画の時、ともやってあくび噛み殺してたくせに」
「え、気づいてたん？」
「気づくわ。映画よりも、隣ばっかりに意識がいって、右半身だけすげぇ緊張してた。つまらなかったらどうしようとか、案外気にしてたんやで」
「…でも俺は大毅と違って寝なかったし」
「はいはい、ともの方がユーシューやな」

こうして、俺らの最後のデート、初デートの答え合わせみたいな一日が始まった。

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