鍵と二人と1LDK【JW 赤×緑】

#08 ページ8

買ってきた荷物の整理に思ったより時間がかかったので、夕飯は橙屋で済ますことになった。
あの二人が余計なこと、言わないでくれるとええんやけど。

「「いらっしゃい」」

相変わらずシンクロした挨拶で迎えられる。
俺の姿を見とめた後、後ろにもう一人いることに気づいた照史はジョッキを一度戻した。

「あ、神山飲める人？」
「んー…今日はやめておきます。お茶がいいかなぁ」
「わかった。照史、ビールと烏龍茶」
「はいよ」

まぁ、酒入れるの怖いよな。
ほんで弱いって明確に言いきるのもちょっと怖いよな。
まだ完全信頼への道のりは長いし、てか、そんな日来ぉへん気がするけど。

「ご飯は？」

淳太の言葉にいつもので、と返す。
名前で呼んでしまったから気づいたらしい二人は、さっきからチラチラと神山の様子を伺ってる。
神山は神山で、物珍しいのか橙屋の中をキョロキョロしているから、視線は合わない。

「しげが誰か連れてくるなんて、珍しいな」
「あぁ、うん。後輩」
「神山です。いつも、先輩がお世話になってます…？」

挨拶してる途中で違和感に気づいたらしい。
うん、ご飯食べてるだけで世話になってるかっちゅーと微妙なラインやな。

「ふはは、可愛ぇ」

淳太が笑うと、僅かに神山の顔が強張る。

「変なノリで構うのやめろや」

若干冷たい声になってしまったけど、淳太はハイハイと頷いて別の客のオーダーを受けにいった。

「ごめん、悪気はないし、多分ソッチでもないから」
「はい。すみません…」

ソッチ…っていうか、コッチ、な。
最大にして最悪な秘密を抱えている罪悪感がふと俺を襲う。

「神山が謝ることやないよ」

机にお盆が二人分、照史から直接来た。

「今日のメインは鮭の西京焼きでっす」
「わ、美味しそう…！」

神山の目が輝く。
いただきます、と言って…止まる。

「ん？…あぁ、さすがにそこまでキッチリせんでええよ」

俺が気づかなかっただけで、普段から俺を待ってくれてたらしい。真面目。

「いや、でも…」
「ええって。毎日一緒に飯食うのにそんなん気にしてたら大変やで」
「！？ちょ、待って、何？毎日一緒に？」

照史が瞬時に食いつく。
えぇ、同居の理由なんて俺も知らんからなんて説明すればええのか。

「今、先輩の家でお世話になっているんです。老朽化で、住んでたところ取り壊しになってもうて」
「へぇ、大変なんやなぁ」

じゃあ(俺にとっては何がじゃあなのかてんで分からないけど)、とサービスでタコの唐揚げが来た。
思っきし酒のあてやんけ。

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