及川徹 ページ4
_____ﾋﾟｰ___
気付いたら俺が触ったボールが後ろに音を立てて落ちていた
あの時、
俺がちゃんと拾えていれば……
ｸｿｯ
なんでだろう
試合に負けた時は涙が出なかったのに
なんで
なんで今
涙が止まらないんだよ
引退試合を思い出すたび
こう涙が出てくる
これで何回目だよ…
ﾌﾟﾙﾙﾙﾙﾙ
ﾌﾟﾙﾙﾙﾙﾙ
え、なに
電話…
誰から…？
____岩ちゃん__
珍しいね
岩ちゃんから電話なんて
『もしもし』
《及川か、》
『岩ちゃん、俺に電話するなんて珍しいね』
《お前がまだガキみてぇにうじうじ泣いてんじゃねぇかって思ってな》
『べ、別に泣いてないし‼』
《泣いてんじゃねぇかよ》
『そんなのわからないじゃん！顔も見えないんだし！』
《おい、何年お前の声聞いてると思ってんだ。泣いてることくらい分かる》
『で、なんの用？いつまでも泣いてる俺を馬鹿にしに電話してきたわけ！？』
《あぁ、そうだ》
『だったら切るから！』
《お前、自分のせいで負けたとかって心のどこかで思ってんだろ。》
岩ちゃんにはごまかせないね
《図星か。あれは俺たちが全力を出し切って負けたんだ、誰もお前を責めないし俺も俺を責めない》
『でも、あの時…俺がきちんとレシーブできてたら……ｸﾞｽｯ』
《あの時、俺がちゃんと点を決めてたら勝ってたかもしれねぇ。》
『岩ちゃんは悪くない』
《ほら、あの敗北は誰のせいでもねぇだろ。過去の事をいつまでも引き摺るってんのはお前らしくねぇし早く立ち直れよ》
『岩ちゃんって実は優男だよね』
《実はってなんだよ。明日もそうやっていじけてたらぶっ飛ばすからな》
ﾌﾞﾂｯ
切れた___
まったく
岩ちゃんらしくないね
でもありがとう
もうあのプレーに
後悔はないよ
続く
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作者名：おゆ | 作成日時：2020年1月6日 22時
