アクタージュ-千世子の憧れ- (ページ3)

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「ひと目で分かったわ。夜凪景はメソッド演技を極めている。恐らく独学で。末恐ろしいわ」

私は今黒山さんとアリサさんの所に来ている

審査結果が気に入らないらしい

「なら、どうして落とした。俳優発掘オーディションだろ。」

黒山さんが苛立たしげにもっている空き缶をベキッと握り潰す

「役者になることが、あの子の幸せになるの？」

出た…『幸せ』…

「そういう話かよ…」

「あなた達演出家は皆そう。作品のためなら役者の人生を考えない。あの子の芝居は危険よ。いずれ、身を滅ぼすわ。だから、」

「だから、私を捨てたんですよね？でもアリサさん、私は立ち直れましたよ。それに今幸せです」

2人のやりとりを見かねた私はかつての上司の言葉を遮って繋げる

「A、あなたが立ち直れたのはたまたま条件がそろったからよ。それにあなたのもまだ完全じゃない」

そんなことないと思うけど

アリサさんは続ける

「自分以外の、誰かになる。恐ろしい芸術だわ。そんな異能に長けた人間を育てて、彼女の人生に責任が取れるの？」

「いつか心を壊すと？女優時代の自分のように」

「………私の“スターズ”は誰も不幸にしない。事務所のゴリ押しと揶揄されて、それの何がいけないの。スターは作り上げるものよ」

事務所のゴリ押し？……ああ、あのイケメンか…

名前は星アキラくん

「くだらねェ」

黒山さんがアリサさんにグッと顔を近づける

アリサさんは目を合わせようとしない

黒山さんは構わず続ける

「思い出させてやるよ。本物の役者って奴を。この世界でしか生きられない人間の、幸福を」