アクタージュ-千世子の憧れ- (ページ12)

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原石を磨きにページ12

結局、グランプリ受賞者は夜凪さんではなかった。

黒山さんは不満そうだったが、これ以上は無意味だと考えたのか、私への被害も軽く愚痴られるだけで済んだ。

「はぁ⁉そんな場合あります⁉」

黒山さんに平日の朝から呼び出されて、事務所のドアを開けると雪ちゃんの声が聞こえてきた。

どうやら黒山さん、また雪ちゃんが持ってきた仕事を断ったらしい。

雪ちゃんの給料が心配だな。

「おはようございます」

「あっ、Aちゃん！おはよう！」

雪ちゃんが笑顔で返してくれる。

「黒山さん、仕事ほったらかして何やってんの」

「仕事してる場合じゃなくなったんだよ」

黒山さんがパソコンを観ている姿勢のままだ。

「やっと運が巡ってきたぜ」

黒山さんはおもむろにパソコンの前から立ち上がり、ドアの方に歩いていく。

「ちょっと！今日これから撮影でしょ⁉どこ行くの⁉」

「雪ちゃんの言う通り！朝から呼び出しておいて外出はないわ！」

「どこって」

黒山さんはチラリとこちらを振り向き、

「原石を磨きに」

と告げて出て行ってしまった。

パソコンの画面には夜凪さんのオーディションの時の動画が映っているのを見て、私は黒山さんが夜凪さんを迎えに行くのだと察する。

「どうしよう、Aちゃん。今日、撮影あるのに」

「大丈夫。黒山さんの言ってる原石は本当にいる。多分、撮影には間に合うわ」

私は不安げな雪ちゃんにウインクをした。