夜凪景 ページ1
“俳優発掘オーディション”
大手芸能事務所“スターズ”が開催するそれには
例年未来のスターを夢見る3万人超えの新人が集う
女優部門 第5次審査 課題“悲しみ”
面白くないなぁ
いいもんが拝めるかもしれないぞという黒山さんの言葉に惹かれてついてきてみたけど期待外れのようだ
皆同じ
きっと黒山さんも同じようにうんざりしているだろう
そう思って彼の方に目を向けると黒山さんが突然ビクッと顔を上げた
おやっと思いその視線の先をたどると彼女がいた
なに…あの子…
めちゃくちゃ伝わってくる
悲しみの中に浸かってる
彼女は一見ただボーッとしているだけのように見える
でもおそらく、私と黒山さんを除くこの場にいるほとんどの人々の目には彼女はふざけているように映るだろう
芝居未経験者
名前は
「夜凪景君。さっきから何のつもりだ。課題は〈悲しみ〉のはずだ‼それをただつっ立って！冷やかしなら帰ってくれ！」
ほら怒られた
怒ったのはアリサさんの息子である事務所のごり押し俳優と呼ばれているあの子だ
彼からは恐ろしいくらい何も感じられないことがある
「？私は真剣です」
夜凪さんが不思議そうに答える
「そんな真剣があるか！」
まあそうなるよねえ
その様子を見かねた黒山さんがアイコンタクトを送ってきた
私はそれに小さく頷き返し
「夜凪さん、どんな人でも理解できるように演じなさい」
とだけ夜凪さんに伝えた
有名女優である聖Aの登場に会場が軽くざわつく
それはその直後、より大きなざわめきに広がった
夜凪さんの目から一瞬で涙が溢れ始めた
「な…一瞬で涙を…」
黒山さんの方から喜びの気配が強く伝わってきた
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作者名：天木たま | 作成日時：2020年10月4日 18時
