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『話すわけないじゃん』

電話の向こうの彼は私の疑問に即答した。そうだよね、話すわけないよね。
今日も無事に仕事を終えた頃には辺りはうっすら暗くなっていた。緩く湿った空気を肌に感じながら私は駅から家までの道のりをスマホを片手に歩いていく

「そう、だよねぇ」
『なんか言われたの?中島に』
「いや、言われたような、ないような」
『なにそれ、どっち』

風磨くんが電話の向こうでため息をついたのが分かった。
中島さんとの会話を思い出してみるけれど、直接的なことは何も言われてなくて、だけどなんとなく勘づかれてるようなそんな気がして。説明するのが難しい。
慣れた道をしばらく歩くと、住んでいるアパートが遠目に見えてくる。
疲れた、今日は何食べようかな、なんて思いながら自分の部屋を見上げると、消したはずの明かりがついてる。

「あれ、風磨くん?」
『ん?』
「…いまどこ?」

私の問いにふはっと笑うと、優しい声で彼は言葉を流す

『家ついた?待ってるから、早く帰っておいで』
 


家の合鍵は、風磨くんのをもらった時に、私のも渡した。私は使うのを未だに躊躇うのに、風磨くんはいとも簡単にその扉を開ける。
来てるなら、なるべく早く帰るし、来る前に一言ほしいなというのも本音なんだけど

少し緊張した面持ちで自分の家のドアを開けると、明るい室内から人の歩いてくる気配。

「おかえり」
「……ただいま」

リビングから顔を見せた風磨くんは、悪戯っ子のような表情で笑う。
たまに見せる彼の無邪気な笑顔が私はたまらなく好きだ。

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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時

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