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さっきの中島さんの言葉のせいで、なんとなく貫地谷さんとの間に気まずい雰囲気が流れてしまい、仕事がひと段落したところで私は逃げるように休憩に入った。
スタジオの先、角を曲がったところにある自動販売機コーナーは椅子もあって、ちょっとした穴場だ。
コーヒーを飲もうか、お茶にしようか迷いながら角を曲がると、先客がいた。
「お…つかれさまです。」
「あ、どうも、お疲れ様です」
中島さんが微笑むのと、自販機に飲み物が落ちたのは同時だった。ガコン、と音を立てたそれを、彼は綺麗な仕草で取り出す。
楽屋に飲み物も用意されてるはずなのに、自販機使う人も居るんだな、と思っていたら、顔に出てたのか、「これ好きなんですよね」なんて、中島さんの買った飲み物を紹介された。
「Aさんは、何飲むんですか?」
「あー、迷ってたんですけど、無難にお茶でもと。」
ボロが出る前にこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。コーヒーかお茶か、まだ気持ちは固まってなかったけれど、サクッとお茶のボタンを押し込んで、落ちてきたそれを手に取る。
「では、今日はお疲れ様でした」
「あ、Aさん」
軽く頭を下げてさっさと立ち去ろうとする私を、中島さんは呼び止める。
なんなんだろう、もう、緊張で心拍はいつもより上がって、変な汗までかいてくる。
「さっきの、すいません。余計なお世話でした?」
さっきの?と、一瞬頭の上にハテナが浮かんだが、貫地谷さんの件か、とすぐに思いついて、「いえいえ、」と手を横に振る
「自分では、気にしてなかったんですけど、やっぱ近いですかね」
「うーん、そうですね」
「前にも、近いって怒られちゃって」
「へぇ、怒られたんだ」
中島さんが笑みを深くしたのを見て、私はしまったと思った。余計なことは言わないって思ってたのに……!
深掘りされたらどうしようかと、あたふたしてる私に中島さんは特に何も聞いて来ないけれど、意味深な表情。
「まぁ、俺が彼氏なら妬いちゃいますね」
「あははーそうですかー」
もう棒読みで笑うしかできない私の肩を、ぽん、とたたくと、「じゃあ、お疲れ様ですーまた今度。」なんて、さらりと言い残し、中島さんは横をすり抜けて楽屋に戻っていった。
その後ろ姿から、なんだか鼻歌まで聞こえそう。
緊張で疲れ果てた私は椅子に腰掛けるとお茶を飲み込む。
風磨くんは、話してないよね、私たちのこと。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時