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カーテンの隙間から入る日差しに、朝だと思った。徐々に覚醒していく頭。吸い込んだ匂いにハッとして起き上がったけれど遅かった
隣に寝ていたはずの彼は居なくて、思わず手のひらでシーツを撫でたけれど、体温すら残ってなかった。
風磨くんより早く、せめて同じ時間には起きようと思っていたのに。
後悔する気持ちを押しこんで、何時かと時計に目をやるとまだ7時。
風磨くんは一体何時に出ていったんだろう
昨日、仕事の開始時間を聞いたのに何度もはぐらかされたのはやっぱり朝が早かったからか
寝室のドアを開けると、シンとした空間が広がっている。クーラーの効いたそこに身震いをして、インナーしか身につけていないことに気づいた。
寝室に戻って、昨日借りた大きめのTシャツを被る
窓の外は呆れるくらいの晴天。やっぱり風磨くんはもうどこにもいなくて、私はスマホを手に取って、寝ててごめんねのメッセージを彼に送った。
テーブルの上には、私の好きな菓子パンが置かれていて、そっと冷蔵庫を開けると、私が良く飲む紙パック飲料と小さなデザートが入っている。
「優し過ぎでしょ……」
思わず呟いた言葉は部屋に散った
お礼のメッセージを続けて送って、適当に身支度をすると、ダイニングテーブルに腰掛けた
「いただきます」
こんな風に、風磨くんの家に1人でいるのは初めてではないけれど、やっぱりどこか落ち着かない。
食べたら帰ろうと思っていたら、スマホが音を鳴らした。
『A?起きた?』
「起こしてくれればよかったのに」
『気持ちよさそうに寝てたから』なんて、電話の向こうの彼は優しい声色で言葉を流す。
「風磨くん、ちゃんと寝れた?」
『全然よゆー』
ほんとにちゃんと寝れたんだろうかってそう思うけれど、あまりしつこく聞くと怒るからもう聞かない。
「朝ごはんありがとう、食べたら帰るね」
『ゆっくりしてきなよ』
「うん、でも買い物とかしたいし、風磨くんも…」
『……ふうまくーん』
あまり長電話になると迷惑かなと思った時だった。風磨くんの後ろから彼を呼ぶ甘ったるい声。
その声の持ち主を私は知ってる。確かではないけれど
「…あ、じゃあ、仕事中ごめんね」
『いや、かけたのこっちだし。また連絡する』
電話の向こうで、また彼女の甘い声が聞こえた気がして、私は避けるように通話を切る。
同じ業界だもん、仕事が一緒だっておかしくない。今流行りの可愛らしいあの新人女優の顔を脳裏に押し込むように私はパンを飲み込んだ。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時