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そういう風磨くんだって、と、口から出そうになった言葉はカレーと共に飲み込む。ここで喧嘩になっても嫌だし。たまにしか作れない貴重な一緒の時間を気まずい気持ちで過ごしたくない。
「……なに？」
「え？」
「いや、何か言いたげ」
「何にもないよ。美味しいねカレー」
誤魔化しているのはきっとバレバレで、だけど風磨くんは私が言いたくないならそれ以上は聞いてこない。
私のペースに合わせてくれたのか、食べ終わったのは同じタイミングで、ごちそうさまと告げると、私は2人分のお皿を持って立ち上がる
「置いといていいよ」
「風磨くんが作ってくれたんだから、片付けはやらせてよ」
とはいえ、洗うものは少ないけれど。
男のひとり暮らしにしては綺麗なキッチン。絶対にこのスポンジに決めてるって風磨くんが前に力説してたそれに洗剤をつける。確かに、泡立ちがいい。
「そういえば、仕事でおいしそうな酒貰ったけど…」
洗っている後ろでゴソゴソと風磨くんが冷蔵庫をあさる気配がする。
チラリと時計を見ると結構いい時間
「これ以上飲んだら電車で寝ちゃいそう」
「え、帰んの？今日」
「……え？」
信じらんないと言ったような風磨くんの声に顔を上げると、いつの間にかシンクの横に立つ彼と視線が絡んだ。
「明日休みでしょ？」
「風磨くんは仕事なんじゃ……」
「俺の事はいいから」
「よくないよ、」
「ガチで言ってる？」
少し怒ったような声色で言われたのと、私が最後の一枚のお皿を洗い終えたのは同時だった。
流れる水を止めた手をそのまま掴まれて、距離を詰められる。思わず後退りをする私を風磨くんの右手が許さない
吐息が伝わりそうな距離。重なると思った唇は寸のところで止められる。
「…帰るならお預け」
「……ずるいよ風磨くん」
私の言葉に、風磨くんは少し嬉しそうに笑うと、ゆっくりと唇を落とす。
風磨くんがそうやって私を甘やかすから、明日風磨くんは朝早いんじゃないかとか、私が隣にいたら良く眠れないんじゃないかとか、さっきまで考えていた色んなことが、もう何も考えられなくなってしまう。
たいせつで、たいせつで、愛おしい人。
だけど気持ちが大きくなるほど、終わりが来るのが怖くて、私はどこかで気持ちにセーブをかけてしまうんだ。
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作者名：しい | 作成日時：2022年9月10日 10時
