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リビングに入るとエアコンの涼しさにホッと息を吐く。風磨くんはそんな私を見て、「最近暑すぎるよな」なんてたわいもない話をする。
「座ってて」
「手伝うよ?」
「いいよ、今日は俺の方が早かったし」
ゴソゴソと冷蔵庫を漁る風磨くんを横目にダイニングテーブルに腰掛ける。目に入ったテレビに映し出されていたのは、映画のサブスク。選択画面で止まっている。
この前風磨くんが良かったって言っていた映画だ。また観てたのかな。
「はい、お待たせ」
「ありがとう」
目の前に置かれたカレーから、ふわりと温かい湯気が漂って顔が綻ぶ。そんな私を見て、風磨くんも満足げに笑った。
「忙しい?最近」
「風磨くんほどじゃないよ」
向かい合わせになって、2人でつぶやくように、いただきます、と言って、カレーを食べる。風磨くんのカレーはやっぱり美味しくい。
このなんでもない時間が大切で、大好きで、いつまでもこの温かい空間に浸かっていれたら、どんなに幸せだろう
「そういえば、来月は誰なの?」
「来月?」
「来月担当のメンバー」
主語のないそれは頭の中を一周して、今日の撮影のことか、と、ストンと落ちる。
彼らのグループと一緒に仕事をするようになったのは、今から1年ほど前だ。私の担当する月刊誌に毎月1人か2人、順番に掲載させてもらっている。
「中島さん、かな」
「あー。」
「何、あーって」
「いや、」
「そういえば、今日わざと声かけたでしょ」
不満げに口を尖らせると、風磨くんはスプーンを止めてピクリと眉を上げる。え、なに、なにか悪いこと言った?
「あいつ、近すぎなんだよね」
「え、誰?」
「なんつったっけ、いつも横にいるやつ」
「あぁ、貫地谷さん?上司だけど……」
「そう、いや、上司なのは知ってっけど」
風磨くんは大きくため息をひとつ。
私はそんな風磨くんの視線から逃れるようにカレーを口に運ぶ。
「もっと警戒心持てって。あいつ絶対Aに気がある」
「いやまさか」
「ほら、またそういう」
あぁそうか、もしかして、わざと声をかけたのは貫地谷さんと私の距離が近かったから?近いと言っても、一緒にモニターを覗けば必然的に近くなるし、その程度だと、思うんだけど。
「隙だらけだから。自覚して。がちで。」
真剣な顔で言ってくる風磨くんに、今日はこの話をしたかったのか、なんてふいに思った。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時