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貫地谷さんが言っていた通り、午後からの仕事は本当に忙しくてバタついた。気づいたら定時は過ぎていて、キリがついた頃には辺りは暗くなっていた。
疲れたけれど、明日は休みだ。
数日働いた解放感から、足取りも軽くなる。吹き付ける風は少しだけ冷たい
スーパーに入ってあれこれ買い物して、結構重たくなったエコバッグに、買い過ぎたと後悔しながら私は歩く。
見慣れたマンションは相変わらず大きくて
駐在するコンシェルジュの横を通り抜けて部屋の前に立つ
インターフォンを押そうと思った指を引っ込めて、私は持っていた鍵でそのドアを開けた。
しゃがみ込んで履いていた靴を脱ぎ揃えていると、リビングの扉を開けた彼がエコバッグをひょいと持ち上げた。
「重。」
なにこれ担いできたの?と言われて、私は誤魔化すように笑う
何が入ってるのかと風磨くんはエコバッグの中身をチラリと覗いて、その中のひとつを手に取ると眉をひそめた。
飲み物の入った、鮮やかなパッケージのペットボトル。あの自販機で貰って以来、私もすっかりハマってしまった。
「これ流行ってんの?」
「…さあ?」
「メンバーもこれ、よく飲んでて」
「美味しいよ、飲んでみる?」
「うん、まぁ……」
歯切れ悪く言う風磨くんに、なんだか弱みを握ったようでおかしくて、私はふふと笑う。
風磨くんは少し不服そうに眉をひそめると、私の手を引いて立ち上がらせた。
繋がれた手のひらから伝わる熱が心地いい。
好きになっちゃいけない人だと思っていた。今もまだ少し、そう思ってる
「風磨くん、明日仕事?」
「…そうだけど、帰るの?」
2人の間で、何が変わったのかと言われると、あまり変わらないかもしれない。
だけど少しずつ、素直になってもいいかなって、そう思う。
「…帰りたくないかも」
「え、なにそれ可愛い」
そういうこと急に言うのはずるい。
その言葉に私は何も言えなくなってしまって、
形勢逆転した風磨くんは、どこか嬉しそうに笑うと、私を優しく抱き寄せた。
end
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時