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季節は足早に進んでいく。そろそろ半袖じゃ寒いなと思っていたら、もうすっかり秋だ。
今朝買ったホットコーヒーを片手に、私はパソコンをたたく
「あれ？Aさん、それってペアのやつ？」
仕事の同僚の一人が、私の腕時計を見て、驚いたように声を上げた。
左手首に巻いたそれに一瞬目線を落とすと「あ、はい、まぁ」と私は歯切れ悪く返事をする。
風磨君がとりあえずこれを巻いておけと渡してくれた腕時計は、割と有名なものらしく、そこそこ気づかれる
今回のことがあったにしても、彼にそんな一面があるなんて、今までは知らなかった
「それって結構いい値段するんだよね。プレゼントでしょ？いいなー」
その質問に私は否定も肯定もせず、誤魔化すように笑う。
ずっと彼氏はいない、好きな人はいないってそう誤魔化してきたから、そういう話題には慣れない。
もちろんペアといっても、風磨君は持っているだけで、付けているのは私一人だけど
「Aさんの彼氏ってどんな人？もしかして同じ業界とか？ペアの時計付けてる人捜しちゃおう」
「いやいや、全然ちがう仕事の人だよ、捜してもいないって」
私の隣に立って楽しそうに話す同僚の頭を、丸まった資料がぽこんと掠める
「いたっ」
「午後から撮影同行だけど、準備大丈夫？」
「あー貫地谷さん、お疲れ様です」
ボスの登場に、同僚は逃げるように午後からの準備へと走っていった
そんな後ろ姿を見て、私は小さく安堵のため息を吐く
「やっぱり居たんだ。当時は好きな人？今は彼氏？」
「……すみません」
「だから謝るなって」
貫地谷さんは私の腕時計を一瞥すると、隠すことなくため息を吐いた
「何か言えない事情でもあるのかなって思ってたけど、そういう感じでもなかったんだな」
貫地谷さんの言葉にドキリとする。必要以上に隠すことで逆にバレてしまう危険もあったのかもしれない。
曖昧に笑って誤魔化すと、彼は穏やかな表情で私に問いかける
「どんな人？」
「優しい人です」
「それはよかった」
彼はふふと笑って、気合いを入れるように手元の丸めた資料をたたく
「よし、午後から忙しくなるから今のうちに休憩しとけよ」
貫地谷さんにそう言われて時計に目を落とすと、針はちょうどお昼を回った所を指していた
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作者名：しい | 作成日時：2022年9月10日 10時
