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今日は珍しく仕事が早く終わった。
それでも夏は終わりに近づいてきていて、少し前までは明るかったこの時間の空も陽が落ちてきてほんのり暗い

なんとなく真っ直ぐ家に帰りたくなくて、お気に入りのカフェに立ち寄ると、香りの良いコーヒー豆をひと袋買った。
 
今日こそは、と毎日思うけれど、臆病な私は、風磨君に連絡を取れずにいる。
 
歩くたびにコーヒーの入った袋がかさかさと揺れる。
あまり食欲はないし、今日は家でゆっくりコーヒーを飲もうと思いながら、近づいてきた自分の部屋を何気なく見上げる。
目に入ってきた光景に足を止めた。

誰もいないはずの窓から、明かりが漏れている

連絡もなく部屋に入れる人は一人しかいない。
途端に私は動けなくなる。行かなくてはという気持ちと、逃げ出したい気持ちが交互に襲ってきて、それでも中島さんの言葉を思い出して足を進める。

逃げないであげてほしいって、そういっていた。
きっと風磨君も同じ気持ちだ。
 
このまま何もなかったことにも、終わりにすることにもできなくて、いつかはきちんとしないと思っている。それが今日だったっていうこと
どんな結末になったとしても、逃げ続けることなんてできない。


部屋のドアの前で大きく息を吐く、少し緊張した面持ちで、それをそっと開ける。
ドアが開いた音に気づいたのか、奥から足音が聞こえてきて、この歩き方はやっぱり、彼だろうなってそう思った
リビングからのぞいたその瞳がピタリと合う。
視線の先の彼は、少し安心したような表情を見せると、静かに口を開いた

「おかえり」
「…ただいま風磨くん」

自分の口から滑り落ちた名前に、久しぶりに会った大好きな彼に、鼻の奥がつんとする
だけど、ここで泣き出してしまうほど、ずるくてかわいい女には、私はなれなかった。

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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時

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