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それでもどうしても、風磨くんの存在を感じさせる仕事が月に一度だけある。
「よろしくお願いします。2ヶ月連続僕ですいません」
「いえ、評判いいので助かります」
中島さんの言葉に、貫地谷さんがスムーズに応える。毎月違うメンバーをと言いたいところだけど、他の人達はどうしても都合がつかず、今月も中島さんがコーナーの担当になった。
どうせなら先月と連動させるものを、と、企画を練り直したのはつい最近だ。
風磨くんじゃなかったことに安堵して、私は仕事のポジションに着く。ここから見る中島さんはやっぱり華やかで別世界の人間だ。
押しそうだった撮影時間は、なんとか予定通りに切り上げることができて、全員に安堵感が漂っていた。
貫地谷さんに少し休憩してこいと言われて、自販機へ向かう。嫌なことを思い出すので、あまりそこに近づきたくはないんだけど、このフロアの自販機は1箇所しかない。
「あ、」
「お疲れ様です」
また居た。と思った言葉は顔に出ていたのか、中島さんは「また居たって思ったでしょ」と、ずいぶん砕けた口調で言って、ケラケラと笑った。
「……いえそんな事は。」
「後は、あんまり会いたくなかったって思いました?」
「どうしてそう思うんですか?」
あまりにも心情を当ててくるから、思わず聞き返してしまった。墓穴を掘っただけだと気づいたけれどもう遅い
前に好きだと言っていた飲み物を一口飲み込むと、中島さんはその笑みを深くして口を開く
「勘かな、その後どう?怒られた彼とは」
「貫地谷さんですか?」
「違うよ。怒られたんでしょ、そいつとの距離が近いって」
誰の事を言っているのか解っている。きっと中島さんも相手は解っている。どうしようって気持ちは頭の中を一周して、だけどもう終わるんだからどうせバレてるんならいいか、と、私は口を開く
「喧嘩しちゃいました」
「あぁー。」
やっぱり。とでも言いたそうな表情を中島さんは見せる。私はそれに気づかないふりをして話し続けた
「でも、もういいんです」
「え?」
「終わりにするつもりなので」
風磨くんとのことを、こうやって誰かに話すのは初めてだ。いつも、彼氏はいない、好きな人も居ないって、そう言ってきたから。
「どういうこと?」
「…もう、彼の重荷になりたくない」
中島さんは私の言葉を受けると、その綺麗な長い指を口元に置いて何か考えるように、視線を逸らす。
私はさっさと飲み物を買ってこの場を立ち去りたいという気持ちでいっぱいだ
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時