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風磨くんと2人、ポツリと残される。自販機の音だけが場違いにゴウゴウと響いていた。なにか言おうと迷っていると、私より先に風磨くんが口を開く
「なに口説かれてんの」
「違っ、」
「違わない」
責め立てられるように言われて、私は口籠る。
いつも余裕たっぷりな風磨くんが、こんな風に怒るなんて初めてかもしれない。
「ちょっと来て」
ぐっと手を引かれて、足がもつれそうになるけれど、なんとか立て直してついて行く。
こんな所誰かに見られたらって思ったけれど、そんな事を口に出せる雰囲気では無い
彼の名前が書かれた部屋の扉を開けると、風磨くんは内側から鍵をかけた。
握られたままの掌が熱い。
「気をつけてって、言ったよな」
少し長めの前髪が揺れる。その間から覗く瞳が私を鋭く射抜く。私は泣きたい気持ちを抑えて「ごめんなさい」と呟いた
「なんもされてない?」
「……されてない」
「ちゃんと、言って」
壁際に追い込まれて、至近距離で視線が絡む。「…告白された、」と呟くように言うと、風磨くんはため息をついた。
「ちゃんと断った」
「ちゃんと断ったにしては、さっきのあれ何?」
責め立てるようにいう風磨くんの言葉に、もういっそのこと泣き出してしまいたかった。けれど、仕事中だという理性がなんとかそれを阻止する。
「っ、私だって……」
ずっと、ずっと我慢してた。風磨くんを困らせるだけだって思ってたから、だけど、口から滑り落ちる言葉をもう止めることができない。
「私だって言いたかった。彼氏が居るって、好きな人が居るって、風磨くんが好きって、だから付き合えないって、言いたかった……」
私の言葉を受けて、風磨くんの表情が変わる。
そんな顔させたい訳じゃなかった。
風磨くんが悪いわけじゃない、貫地谷さんの事を呑気に捉えていた私が悪いのは事実だから
「…ごめんなさい」
呟くように言葉を流すと、風磨くんの視線から逃れるように私は俯いた。
私の掌を握っていた彼の手はふわりと離されて、遠慮がちに私の頬を滑る。
「A、」
『ふうまくーん?』
風磨くんが私の名前を呼ぶのと、部屋がノックされたのは同じタイミングだった。
鍵は内側からかけられていて、心配はないけれど、妙な緊張感が私たちの間をただよう。
『風磨くんいる?』
甘ったるい声。きっとあの女優さんだ。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時