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例の撮影の前日、『明日よろしく』なんていうメッセージが風磨くんからきた。私はそれに返信をして、小さく息を吐く。
その日は緊張してなかなか寝付けなかった。
「おはようございます、菊池さん入ります」
スタジオの凛とした空気を肌に感じる。
仕事だと何度も言い聞かせても、ひさしぶりに会う風磨くんに顔が綻びそうで、話をしたい触れたいっていう気持ちは必死に押し込んだ。
続いてあの可愛らしい女優さんが入ってくる。
隣を通ったときに香ったそれは、やっぱりこの前風磨くんが纏っていた香り一緒で、嫌な気持ちが頭の中によぎったけれど、振り切って業務に集中する。
「あの2人、お似合いだよね」
「なんか仲良さそうだしね」
「もしかしたら、…あるのかな」
「こら、タレントの噂話しない」
風磨くんとお相手の女優の2人を見てスタッフ達が陰でコソコソ話をしているのを、貫地谷さんが咎める。
ドラマ関連の特集って時点で、そういうのは覚悟していた。前より一段と距離が近い2人を見て思わず息が漏れる
「なに、Aも?」
「え?」
「ファンだった?菊池さん」
「いえいえ、とんでもない」
からかうように貫地谷さんが言ってくるのを、私はパタパタと手を振りながら否定した。「真剣なとこがあやしーな」なんてまたニヤリ顔を向けるので拗ねたように口を尖らせて見せる。
「楽しそーだな編集班。次のカットは?」
「あ、すいません!」
上の指示に貫地谷さんが駆けつける。不意に、その先の風磨くんと視線が合って、逃れるようにパッと逸らしてしまった。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時