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貫地谷さんは、振られる気配を察したのか、すぐに返事は聞いてくれなかった。「ダメ元というか、気持ちだけ知っといてほしくて」なんて、情けない顔で笑う彼に少しだけ胸が痛んだ。
そのまま1人で電車に乗って、家にたどり着く。
いつもは風磨くんのことばかり考えているのに、私の思考はぐちゃぐちゃだ。
貫地谷さんの気持ちは受け取れない。それは決まってる。だけどどうやって断ろうって、彼氏が居るっていうのも好きな人が他にいるっていうのも、もし万が一相手がバレたらと考えると、怖くて言うことが出来ない。
静かな部屋に耐えきれなくて、テレビをつけると、タイミングよく風磨くんが映し出されて心が跳ねた。
バラエティ…じゃない。あ、ドラマ、今日からだったんだ。
なんだか急に不安になる。
声だけでも聞きたくて、私はスマホを手に取った。自分から電話は滅多にかけない。
だけど、今日だけは、ってそう思いながらかけたコールは取られることなく虚しく鳴り響いた。
よく寝れないまま朝を迎る。夜遅くに風磨くんから電話の折り返しと心配のメッセージが入っていたけれど、もう私は素直になれず、それにスタンプで返しただけだった。
「特集ですか?ドラマの?」
「そう、納期はだいぶ厳しいんだけど」
そう言って渡されたスケジュールに目を通すと、企画から納品まで2週間しかない。
そこに書かれた名前に思わずため息が漏れそうになったけれど、なんとかこらえる。
風磨くんのドラマの特集。初回が好評だったからか、数ページだけでも差し込みたいらしい。もちろんあの女優さんも一緒。
上が決めたことに私がどうこう言える訳もなく、与えられたスケジュールに間に合うように動くだけだ。
「やるしかないんですよね」
「度々、忙しくしてごめんな」
謝る貫地谷さんに、チームのみんなも「今度奢ってくださいよー」なんて野次を飛ばす。
あれからしばらく経つけれど、貫地谷さんはその後何も言ってはこず、私と彼はいつも通りの日々を送っている。
このまま、何事もなかったかのように過ぎれば良いな、なんて、狡い私はそう思っていた。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時