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今朝は少し遅めの風磨くんを置いて、私は家を出た。布団の中で寝ぼけ眼だったけれど、大丈夫だろうか。彼はちゃんと仕事行けるかな、こんな質素なアパートから出てきたってバレないかなって、出勤中は風磨くんの心配ばかりが頭の中をぐるぐる巡った。
職場に着くと、仕事量の多さにプライベートのことはあまり考えずにすんだ。だけど作業がひと段落ついたときや、その合間でやっぱり彼の事を思い出してなんだか悔しい。
飲み会のことは結局言いそびれてしまった。
仕事の付き合いだし、貫地谷さんと2人きりと言うわけじゃないから、いいかな
風磨くんだって、香水の香りが移るほどあの人と近くにいたんだから。私服なのに香りが残るって、本当に仕事だったんだろうか、なんて、そんな嫌な事考えても気分が落ち込むだけだからと、気持ちを落ち着かせるように大きく息をついた。
思ったより響いた溜息に、向かいの席の貫地谷さんが驚いたような表情を私に向ける
「あ、すいません」
「どうかした?トラブル?」
「いえ、なにも。大丈夫です」
「無理せずにな」
風磨くんが嫌悪する貫地谷さんは、私にとってはやっぱりいい上司で、無下にする事もできない。
今日は飲み会だし、早く仕事を終わらせなければならないと、私は今一度パソコンに向き直った。
「……え、2人、ですか?」
仕事を終えて指定された居酒屋に行くと、そこにいたのは先に会社を出た貫地谷さんだけだった。
「いや、他にも声かけたんだけど、まだ仕事があるだかで、後で来るんじゃないかな」
私の問いに貫地谷さんは曖昧な言葉で誤魔化す。
後から人が来る気がしないし、さすがにこれはまずいかもしれない。
だからといってこの状況で帰るわけにもいかず、私はいったん差し出された席に腰掛けた。
「とりあえず飲もうか」
はい、と、ドリンクのメニューを差し出されて、その中から無難なものを選ぶ。
ソワソワして落ち着かない。こんなところ風磨くんに見られたら絶対怒られる。まぁこんな大衆的な居酒屋に彼が来るわけないけれど。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時