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『今日これで終わりなんだけど、そっちは?』

そんなメッセージを確認したのは、その連絡が入ってから3時間程後だった。あれで仕事は終わりませんでした。私は。
クーラーのよく効いたビルのロビーで立ち止まって、返信を打つ

『ごめん、今終わった』
『作ったから、こっち来れる?』

その後にはカレーの絵文字。
ぽこぽことタイミング良く会話が続く。待っててくれたのかな、でもこういう時って大体彼に話したいことがある時だ。

『今から行くね』
そう急いで返信をすると、スマホをカバンに放り込む。確認した時計は19時を回っていた。早く行かなきゃ、と思って踵を返した時だった。「A」と、後ろから呼び止められたのは。

「あ、お疲れ様です」
「お疲れ、最近残業続きで悪いね」
「貫地谷さんが悪い訳じゃないですから」
「今日は割とサクッと終わってよかったなー。あの現場ももう1年だもんな」
「…そうですね。」

貫地谷さんは直属の上司だ。歳も近く、なにかと気にかけてくれていて優しいし、助けられている。
私が歩く横を同じペースでついてきて、自然と並ぶ形になる。いつもなら利用の交通機関は同じだけれど、今日私の向かう先は自宅ではない。

ロビーを抜けると、夏特有の蒸し暑さが肌を纏う。
暑さから逃れるようについた私のため息に気づくと、貫地谷さんが隣で少し笑った

「暑いね、何か飲んでく?」

明日休みだし、と、続ける彼に、私は曖昧な笑みを浮かべて「今日は用事が、」と断りを入れた。

「え、なに、…彼氏とか?」
「あーえっと、ではないんですけど」

そうだ、と言えれば楽なのにと今まで何度も思った。だけどそれは叶わない。リスクは全て潰しておきたい。
貫地谷さんは少しだけ安堵したような笑みを見せて「そっか、まぁじゃあ今度な」と言葉を流した。
 
夏の空は未だに少しだけ明るく、大通りはひっきりなしに車が行き交う。
貫地谷さんと分かれて、ふと顔をあげると、駅前の大型ビジョンには昼間みた可愛らしい女優さんが映し出されていた。

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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時

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