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好きになっちゃいけない人だって思っていた。実は今でも、そう思ってる。
「はい、オッケーです。お疲れ様でしたー!」
場を仕切っているトップの声がスタジオに響く。ピンと張っていた糸が解けると共に、辺りが騒がしくなり、各々一斉に片付けを始める。
私も例外なく、写真データの照らし合わせとこの先のスケジュールの確認に急ごうと踵を鳴らした。
「おつかれさまでしたー」
不意に、横から声がして顔を上げる
パチリ、と、意外と至近距離で合った瞳。そらすのも不自然だし、私は軽く頭を下げると「お疲れ様でした」と言葉を流した。
少しだけ上がった彼の口先に文句を言いたくなるのをグッと堪える。今、声をかけたのだって確信犯だろ、絶対に。
私の横をすり抜けていく彼に意識を持っていかれそうになったけれど、モニターに集中しなくては、と、一度視線を伏せた時だった。
「ふーまくん、お疲れ様」
彼を呼ぶ甘ったるい声が耳について、思わずスタジオの入口に目線を向ける。最近テレビでよく見る新人女優さんだ。このビルの別スタジオで撮影があったんだろうか、というか売れてればどこでも出入り自由なの?
「A?」
「あ、はい、すいません!」
「ボーッとしてどうした?暑い?」
「いえ、大丈夫です!」
上司の貫地谷さんに肩をポンと叩かれて慌てて私はラフに目線を戻す。モニターに流れていく写真に息が詰まりそうになるけれど、全て商材だと思う事で割り切らなければならない。
思わず漏れそうになったため息を飲み込んだ。
最近激務だったからか、心配そうな目線を向けてくれる上司はとてもいい人で、申し訳なくなる。
もう一度、入口に目線を送ると、風磨くんと可愛らしい女優さんはまだ話をしていた。絵になるな、2人並ぶと。
いい歳なのに、こんな割に合わない恋をする筈じゃなかった
なんて、そんなことを思っても今更。
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作者名:しい | 作成日時:2022年9月10日 10時