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「そもそも東京に住んでるかもわからないんだろ?」
「そう。昨日の深夜この近くで見かけた気がするけど、住んでるところはわからない…そもそも地方で会ったわけだし、どこの人かも…」
「まあ、それっぽい女性がいたらそれとなく気にしてみるわ。でもここ頻繁にくる常連さんが多いし、俺ここ以外で人と知り合うことなんてほぼないから、俺が知ってる人だったら理もうここで会ってると思うんだよな〜」
「あ〜…」
「本当に会いたいんだったら」
圭介さんが酒を飲み干して言う。
「東京中、いや全国探し回ってでも見つけ出すんだな」
ニヤリと笑った圭介さんに、心を見透かされた気がしてドキッとした。
そう。おれもこの気持ちが何なのかわかっていない。
圭介さんに女性の話をすることはあっても、真剣に一人の女性の話をするのは初めてだったから面白く思われたんだろう。
その気持ちは何なんだ?って。
あの日はただ傘が、あの白い傘が気になっただけだった。突然飴を差し出されてびっくりしただけだった。
でも何度もあのシーンを反芻してしまう。
なぜおれの声が掠れていたことに気付いたのか。スタッフもメンバーも気づかない程度、おれにしかわからない程度だったのに。
本当にライブに来ていたんだとしたら、King Gnuのファンだったとしたら、なぜあの時「ファンです」とも言わず、振り返りもせず去っていったのか。
そしてなぜおれはもらった飴を何となく食べることもできず、大事にとっているのか。
圭介さんの視線に耐えきれず、椅子の背にもたれて視線を外す。圭介さんが去ったタイミングで、彼女からもらった飴のレプリカを口に放り込んだ。
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作者名:あこ | 作成日時:2021年12月14日 15時