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電話を掛けて間もなく、おれは夜早い時間から三軒茶屋のバーのドアを開けた。
以前知り合いのバンドマンに連れてきてもらって知った、40代のマスターが営むバー「Az」。
落ち着いた雰囲気のバーだとそわそわしちゃうけど、ここはカジュアルだし、料理もしっかり出てくるから一軒目から入ってゆっくりするのにもちょうど良い。
夏頃に初めて来てからというもの、一人でも頻繁に通うようになっていた。
「連絡あったからびっくりした、いつも連絡せずに来るじゃん」
ニカっと笑う短髪の格好いい彼ー圭介さんがここのマスター。話もうまいし、落ち着いていて、女性客に言い寄られてるのをよく見るくらいイケメン。
見た目はシュッとしてるけどすごくフランクで、そのせいかこのあたりだと顔が広いっぽい。
年齢の離れてるおれにも良くしてくれて、出会ったばかりなのに気づいたら友人のような間柄になっていた。
「お願いがあって。その話がしたかったら連絡したんだわ」
「え…女の子?女の子の紹介はしないって…」
「いやそうじゃない。いや?そうじゃないこともない?か?あれ?」
「理話まとまってる?」
「大丈夫大丈夫、えっと」
ハイボールを一口流し込んで一息つく。
「探して欲しい女性がいて」
「ほらやっぱり女の子じゃん!!!」
「そうじゃなくて!いやそうなんだけど!!」
話がトンチンカンすぎて自分でも吹き出してしまった。
昨日、いや今日の深夜、白い傘の彼女を見た。歩いている彼女を。場所はどこだかはっきり覚えてないけど、たぶんここからそう遠くなかった気がする。
「下心とかマジでなしで…もう一度会いたい女性がいて。でも顔もはっきりと覚えてないし、名前も知らないし、どこに住んでるかも知らない人なんだよね」
「怖くない?何それ?」
「怖い…と思う…(笑)前たまたま地方のサービスエリアで話したことがあって、親切にしてもらったからもう一度お礼が言いたくて」
「どんな感じの女の子なの?」
「んーー。歳は…たぶんおれと同年代〜30歳くらい。見た目は…髪は肩くらいで、可愛いような綺麗なような不思議な雰囲気だった。派手ではないけどパッと目を引くきれいな人だとは思う。話し方も落ち着いてる人で…中肉中背の…」
「またそんなどこにでもいそうな…」
「ほんとだね、言ってて思ったわ」
これは望み薄だ。
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作者名:あこ | 作成日時:2021年12月14日 15時