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立ち上がって、CDを手に取りおれの横に戻ってきて、彼女が言った。観念したような表情で。
「これ、」
「うん、おれらの。部屋に置いてあるの知ってた」
「わたしKing Gnuのファンなの、普通に」
「うん、そうなのかなって薄々。ツアーファイナル来てたよね？」
驚いたのか、目を見開く。
「ステージからあんな遠くの客席の顔まで見えるの？」
「見えるよ。一人一人よーく見える」
そうなんだ、と言い、一呼吸おいて話を続ける。
「初めてAzのテーブルで会った日も、サービスエリアの時も、ただそこに理くんがいたから話しただけで」
「うん」
「ファンだからなおさら、ちゃんと一線は引いておきたいなって思ったし、ファンって先に言ってしまったら、あなたはわたしの目の前でもKing Gnuにならないといけないでしょ？」
「だから飴くれたとき、ファンです、ともなんとも言わなかったの？」
うん、と頷く。
「電源オフしてる状態で、ファンですって言われるのしんどくない？またオンにしなきゃいけないような。
それにファンがお店にいるって思うと、それは嬉しくても、やっぱり疲れることだよね。好きなお店も、気軽に行ける場所じゃなくなるかもしれないから。言いたくなかった」
「Azで会ったとき、人違いだってうそついたのは？」
「サービスエリアの話になったら、さすがに飴の話になるかなって。飴の話が出たら、なんで飴？ってなっちゃうでしょ」
「ファンだって言うしかなくなる？」
「そう。だからただ目の前にいる1人の人として、King Gnuじゃないあなたと、Azで初めて会った体で話をしようと思った。1人の、27歳の男の人と」
ああもう。なんでこの人は。
「有名な人も、そうじゃない人も関係ない。みんな同じ、ただの人だから。わたしはそうやっていろんな人と関わって、仲良くなるのが好きなだけ」
おでんの具総選挙を思い出す。
彼女の人との関わり方は、おれへの態度は、おれにとってすごくまぶしかった。
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作者名：あこ | 作成日時：2021年12月14日 15時
