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何も言わないでほしかった。
今この瞬間のおれだけを見て、感じててほしいと思った。
薄い唇だな、といつか思ったのは思い違いで、ぽってりとした柔らかさを味わうように何度も何度も夢中で口付けた。
甘いチョコアイスの味。止めたくても止まらなかった。
苦しくておれから離れたいのか、後ろに下がる彼女の背中に手を回して唇をつけたまま一緒に倒れた。
「…っコート、皺になっちゃう」
息継ぎするのと同時にそう呟く彼女に、
「じゃあ脱いで。…全部」
と意地悪を言ってみる。
いつもと全く違う、潤んだ目と赤くなった頬に、こんな顔誰にもしないで欲しいと独占欲が沸き立つ。
キュッと結んだ口に優しくキスして、やっぱりおれが脱がしたい、と笑って囁いた。
今まで想いをせきとめていたダムは、存在する意味をなくして決壊した。
夢中でAさんの全身に口をつけた。
顔から足先まで、どこに触れても身体を震わせてかわいい声を出す彼女に何度も「かわいい」と伝えた。
熱でもあるのかと疑うくらい、自分の全身が熱いのがわかる。
待ちきれなくて腰を沈めたとき、
「さとるくんっ…あつい…」
涙目で、上ずった声でそんなこと言われたら、もう、
「ごめん。…たぶん優しくできない」
今日は、今夜こそはおれのペースになると思ってたんだけどな。さっきまでは。
「だめ…」
「だめじゃない、でしょ？」
「んっ…」
「うそ、つかないで」
彼女がおれの動きに合わせてかわいい声を出すたびに、もっともっとと止まらない想いが溢れ出て来る。
「うそ…？」
「そう。もううそはつかないで」
ねえ。
あの日、会ってないなんて。
そもそも。
夢中にさせたのは君だよ。
いつも小さなことにまで気がついて。
見返りはいらないと優しさをくれて。
楽しい気持ちにさせてくれる。
おれを、そのままのおれを見てくれる。
でも君の本音は？
君はいつでも、誰にでも同じ態度で。
君が本音を見せる相手は誰なの。
君がどうしようもなく切なくなったり、取り乱してしまうときはいつなの。
おれは見たい。君の全部がほしい。全然足りない。
こんなこと言葉にできないよ。
どうかわかってほしい。
おれの動きに反応する彼女を見て、もっとおれであふれて、汚れて、乱れてしまえばいいのに、と思った。
タガが外れたかのように止まらなくて、朝になるまで何度も何度もAさんを愛した。
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作者名：あこ | 作成日時：2021年12月14日 15時
