18 ページ18
外に出て少し歩くと見覚えのある道に出た。
「本当だ、Azとこんなに近い」
つぶやくと「だから言ったでしょ、うちはホテルにちょうどいい」と笑う。
「まあホテルにしては…ベッドは小さくて2人じゃ寝られないのが申し訳ないけど」
「普通そうだよね、普通の家は。おれは割とどこでも寝られるから大丈夫、ありがたかった」
「ならよかった。一種の職業病だねー」
そんなことを話しながら、昔ながらの喫茶店でタマゴサンドを頬張る。
コーヒーが冷えた体にあたたかい。
「朝のコーヒーってなんでこんなに美味しいんだろ。酔いがさめる」
「本当に」
「井口くん好きなコーヒーあるの?」
わたしはねー、なんていつもと変わらない様子でにこにこ話すAさんを前に、いつもこうして誰かを泊めるのかな、とか、もう会ってはもらえないのかな、とか、色々な考えが頭を巡った。
彼女の思っていることが見えなくて。
「ねえ、Aさん。…また会いに来てもいい?」
精一杯の言葉だった。
Aさんは少し目を見開いてから
「Azでいつでも会えるよ」
微笑んで言った。
今のはおれの言葉足らず。
でも、「2人で会いたい」なんて口にするのも違う気がして、よかった、と吐いた言葉はもごもごと口の中に溶けた。
36人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あこ | 作成日時:2021年12月14日 15時