白い傘、オレンジ色のあめ。 (ページ12)

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彼女の嘘に気づいてから、あの日のことはなんとなく聞けなくなってしまった。

なんで飴くれたの？
なんで声が掠れてるってわかったの？
ファンだったから？
ファンだったらなんであの日「井口理さんですよね？ファンです」って言わなかったの？

目の前で2杯目のビールを美味しそうに飲む、このどこにでもいそうなきれいな女性は、一見どこにでもいそうだけどそうじゃない。

「どこにでもいる女性」なら、そしておれの声の不調に気づくくらいのファンだったら、サービスエリアであんなに「普通に」はいられないと思うんだ。
今もそう。
「普通に」おれと話してる。え、これっておれが勝手に自分を有名人だと勘違いして思い上がってるだけ？
だって好きなアーティストが目の前にいるのに好きなおでんの具の話とかする？

だとすると、まあファンじゃないのか。
ファンじゃないならなんであの微かな声の不調に気づいたんだろう。

あの日から彼女に聞きたかったことでおれの頭の中はいっぱいだったけど、会うと余計に謎が深まってしまった。同じ問いがぐるぐるぐるぐる頭を回る。何度も。
会うと不思議な気持ちになる。毎度そうだな。

ずっと聞きたくて、会いたくて探していたのに、会ったらもっとわからない。

いよいよ本当に面白くなって突然声をあげて笑ってしまった。
大根は殿堂入りだから除外！などと圭介さんと話していた彼女は、突然の笑い声にびっくりした様子を見せたあと、すぐに同じテンションでくすくす笑った。