白い傘、オレンジ色のあめ。 (ページ1)

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その日は肌寒い雨の日だった。

ツアー終盤、地方でのライブを終え、じっとりとした車の中、暗い気持ちと一緒に大きな身体を座席に沈める。

声の調子が良くない。

ツアー中盤、まだまだ後半戦が残る中でこのコンディションはいただけない。
メンバーすら気づいていないくらいの違和感は、おれの中に確実に暗い影を落としていた。

目を閉じて揺れに身体を預け、気がついたら眠っていた。

「21時くらいにはまた車戻ってきて」

マネージャーの声にはっとして目を覚ますとサービスエリアに着いていた。メンバー・スタッフは各々思い思いの場所へ向かう。
財布と煙草をポケットに押し込めて後に続いた。雨は上がっていたらしい。

喫煙所で一服を終え、コンビニへと歩く。前方を歩く人が手に持った白い傘に何となく目がいった。
白い雨傘って珍しいような。夜なのもあってか、どんよりとした夜の空気を切るような白だなとぼーっと思った。

飲み物とガムを買ってコンビニを出たところで、白い傘が待っていた。ー傘立てに。
コンビニにはもう人がいない。ってことは、あの人傘忘れたのか…。

何となく手に取ってしまった。

今は止んでるけどまた降り出しそうな空。明日も雨だよな確か。傘ないとあの人困るよなーー。

「あっ…？」

女性の声に、手にした傘を見ていた顔を上げる。

「それ…」

盗難の現場だと思われてるのだろうか。ちょっと困った顔をして言葉を選んでいる様子に、思わず笑ってしまった。

「ははっ、盗む現場見ちゃった、とか思ってますか？この傘持ってコンビニに向かうあなたを見てたんで、忘れ物だろうなと思ってどうしようかと…」

「あ…そうなんですね。ご親切にありがとうございます」

「いえ僕は何も…じゃあ」

傘を手渡して、とぼとぼとまたさっきの喫煙所へ向かう。

たしかにああいう場面ってどうしたらいいんだろう、そもそも忘れられた傘を届ける人ってあんまりいないよな〜。絶対盗難だと思われたわ…

「あの！」

振り返ると、女性が小走りでこっちへやって来た。白い傘が光って見える。