Don’t Wanna Fall In Love【HS】

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「お、踊って……？」


「はい！ まあ見ててください」



ワイヤレスイヤホンを外した彼が、

ベンチに携帯を置いて音楽を流し始める。


聴きなれたリズムに乗っかった身体が、表情が、

音と一体になってダンスに馴染んでいく。


それは、私がさっきまで聴いていた曲と全く同じ。

軽やかに空気を裂いたステップ、ターン、

それらすべてが、記憶に残るほど

何回も繰り返し見ていたものだった。



(すごい、初めてこんな近くで見た＿＿)



あまりに感動して固唾を呑んで見守る。


考えてみたら知らない人、知らない人、

なのだけれど、何故だか見ているうちに

親近感が湧いてくる。


ぴたり、ぴたりと当ててくるヒットのさなかで、

こちらに向けられる視線がとんでもなく艶やかだ。


寒いはずなのに、暑い。熱くてたまらない。


分厚いコートの裏側でじわじわと浮き立つ細胞が、

彼の呼吸に共鳴してゆくのを感じる。



最後の一音がこぼれるのを待たずに拍手をすると、

彼は汗だくになった身体を少しだけ身震いさせ

戯けたようにお辞儀した。
　
　
　

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