Don’t Wanna Fall In Love【HS】

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「最悪だ…」



駅のひらけた出口から、さあさあと

静かな夜の気配があふれている。

やがて雨は無機質なコンクリートに

水溜りをいくつも作っていき、

静けさは勢いを増して行く人々を

しとどに濡らしていった。


見かけた白いYシャツをすぐ追いかければ

よかったのかな、と考えたって仕方がない。

この雨は不意に現れた天気だ。

春に多いという、通り雨。


いつもは親に連絡をすれば傘を持って

きてもらえるが、生憎今晩は家にいない。

このまま途方に暮れていても時間が

過ぎてゆくばかりだと分かっているのに、

雨に濡れる勇気が出ずなかなか一歩を

踏み出せない。


じり、と後ずさった靴のすぐ先で、天井から

伝ってきた雫が一定のリズムで跳ねている。

何度確認しても天気予報は曇りのまま

情報が固まっていて、

いつ止むかなんて誰にもわからなかった。


腕に現れた鳥肌をおさめるように両腕を

さすり、意を決するため深呼吸する。

もはやここに居続けても濡れて帰っても

風邪をひく運命は変わらない気がしてきた。



(それなら、行動した方が吉だ)



ぎゅっと目を細めて長方形に切り取られた闇に

身を潜り込ませる。雨のつめたい雰囲気は

歩を進めるうち徐々に身を包んで、

まるで自意識だけが世界にひとつだけ

存在しているように思えてくる。


雨の中を走るのはおよそ初めてだった。

それは決して不快なものでなく、

むしろ楽しさすら覚える、心地で。
　
　
　

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