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俺を慕ったガキの話 ページ6





16年ほど前。当主・直毘人が不在の時に
禪院家が壊滅の危機に追い込まれた事がある。


そう、禪院甚爾の手によって。
今日まで禪院家が存続していたのも、彼の気まぐれだった。


真琴は当時10歳だった。
それでも彼は、この家における甚爾の扱いや
並外れた強さの理由を理解していた。



『甚爾さん、どこに行くんだよ』


彼は門を抜けて出て行く甚爾の前に立った。


「さあな。ここ以外なら何処にでも行くさ」



何十人もの禪院家にいた術師を瀕死にしたのに
当の本人は殆ど無傷。余裕の笑みを浮かべる。



『…何で、完全に壊してくれなかったんだ』



生まれながらに神童と呼ばれ続ける真琴は
相伝である、十種影法術を継いでいる。

同い年の直哉も、
直毘人と同じ相伝術式を継いでいた。

そんな彼らに、周りの人間は逆らわない。
思うがままに家を動かす事ができる。


当然、禪院家に不満は無いはずだった。
ましてや10歳の少年だ。

現に直哉はこの家を心地よく感じている。
だが真琴は違った。



「…オマエ、この家の何が不満なんだ?」

『………なりたくない』

「は?」

『術師なんかなりたく無いんだ。

出て行くなら…俺も連れてってよ』



『持たざる者』として差別を受け続けた男に
『持ち得た者』として恵まれた少年の気持ちが
完全に分かるはずが無かった。


この上ない権利と自由を与えられながら
不自由と感じるだなんて。

ただ、寡黙ながらも明らかに自分を慕ってくれていたこの少年が初めて零した本音。


情は充分に残っていた。


「…本気で_____『おった!!!』」

「甚爾くん!!何でこんな事したん!?」


真琴に甚爾の言葉の続きは聞こえなかった。
そこに現れた直哉の声に掻き消されたからだ。



直哉も甚爾を密かに慕っていた。だからこそ、
こんな事件が起こってパニックになっていた。



「何でやねん!!!何で…何で…」


甚爾に飛びかかろうとする直哉を真琴は止める。


『直哉、ちょっと落ちつ__「真琴」』



「自由は手前の手で掴むもんだぜ。頑張れよ」




甚爾はそう言い残して立ち去った。
真琴は追いかける事ができなかった。


もしも直哉があの時来なかったら
自分は甚爾に連れ出してもらえたのだろうか。

以降、そんな事をよく考えていたが



『…いや、これで良かった』



大した荷物も持たず、闇夜を1人歩く彼は
そう呟いて、微笑んだ。





『___________俺は、もう自由だ』

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設定タグ:呪術廻戦 , 短編 , 禪院真依
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ユキ(プロフ) - さ、最高でした………ありがとうございます(*^^*) (2022年9月18日 20時) (レス) @page5 id: 390c1a0e26 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:mona | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/personal.php?t=academia1st  
作成日時:2022年9月18日 1時

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