【五条悟】ブラックスマイル

39. 少しずつ ページ41

【五条side】



閉められたドアに話しかける気力も今は無い。


疲れた。今からまた出張だし。



「…そうだよな、そりゃあ特別だよ」



あのクズの息子である限り
彼女にとって恵も特別な存在に決まってる。


…妬いてるとかじゃない。

そもそも本当に聞きたかったのはアイツの話。



だけどいざとなるとやっぱり言えなくて
悠仁を引き合いに出しただけだった。


…それで良かったのかもしれない。

アイツの事なんて聞いてどうする？
どんな関係か聞いた挙句「僕が殺しました」とでも言うのか？クズだろそんなの。



僕は…Aに何を求めてんだろう。

感情をぶつけて欲しい？確かにそうだ。
幸せになって欲しい？そりゃあそうだよ。


僕にそれを望む権利はあるのか？

彼女の大切な人を奪った僕に？



…駄目だ。

彼女が絡むといつも罪悪感が芽生える。

今死んだら多分僕呪いになるんじゃない？とか
思っちゃってる。疲れすぎだな。




夜も遅いしタクシーで移動する。


その時、電話が鳴った。Aから。



「もしもし。まだ寝てないの？」

『…考えてたの。さっきの話の続き』

「……うん」

『私

悠仁が死んだ時、納得出来なかったの』





納得出来なかった…か。彼女は続ける。






『なんで悠仁が今死ぬんだろうって
こんな死に方違うでしょって思ってた。

だからムカついた。誰に対する苛立ちでも
なかったけどムカついたの。


恵もきっと同じ。私は恵を守りたい。
だけどそれは必ずしも生かす事じゃないの。

私は…間違った死に方から恵を守りたいだけ。

だって命の重さ自体はみんな平等だもの。
私やあなた、そして恵に…悠仁も』



…今までの彼女なら

あのドアを閉めた時からその話は終わってて
次の日の朝にはいつも通り笑ってた。


今きっと、彼女は笑ってない。
見なくたってわかる。



「…なんで僕にそれを話してくれたの？」

『…言ったでしょ？少しずつ変わるんだって』




ダメだなぁ。

のしかかってくる罪悪感よりも
ずっとずっと君が愛おしくて堪らない。

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