【五条悟】ブラックスマイル

8. 見捨てられた指輪 ページ10

【五条side】



「ん……ぁー」


朝か。…これ、どういう状況だっけ？
ああ、あのまま2人とも寝ちゃったのか。

抱き枕のごとく腕にすっぽり収まったA。

思ってたけど華奢だな。簡単に折れそう。
ちゃんと食べてんのかな。


…初めて見たな、寝顔。流石に笑ってない。

彼女がこんなに喋る人だって事は
昨日まで知らなかった。


何考えてんのか分からないんじゃなかった
僕が何も知らないだけだった。


これからどうすれば良いんだろう。


聞きたい事は残ってるし、それよりも
また会えなくなるのは…嫌だ。


『ん……』



無防備な甘い声を漏らしながら
薄らと目を開けるA。


「おはよう…何かごめんね
絶対手は出してないと思うんだけど」

『どっちでも良いよ』


腕から擦り抜けて、彼女は立ち上がった。


『コーヒーは好き？』

「甘いならね」

『そう。シャワー貸すよ、洗面台も向こう』

「洗面台だけ借りるよ」

『どうぞ』


そう言って彼女は反対方向に歩いて行った。


この部屋、やけに広いと思ったら２つの部屋を
繋げてんのか


だからトイレもバスも洗面台も2つずつあるのね
こんな高級マンション贅沢に使ってんなー…。



洗面台には、歯ブラシやコップが2つずつあった

それに…適当に置かれた高そうな指輪。
多分こんなとこに置くもんじゃないよね。


指輪を手に取ると、彼女の名前と
男であろう名前が彫られていた。

自分でも笑えるくらい胸がざわつく。


戻って来ると、彼女はコーヒーを淹れていた。

テーブルには大量の角砂糖が入った入れ物。

よく見ると、リビングの方のローテーブルには
男との写真が飾られていた。



見覚えのある男の顔だなと思えば
大手IT企業の社長だ。テレビにもよく出てる。





「もしかして同棲してた？」


『時々来るだけ』






光の反射で見えてなかったけど
何か紙が写真立ての下にある。


席を立って少し近くまで寄ると
それが婚姻届だということがわかった。


多分男が全部書いたんだろう。

Aがハンコさえ押せば
もう提出できる状態にはなっていた。



夢なら醒めてほしい所だよ、本当に。



『コーヒー、入れたよ』




「……結婚すんの？」

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