サーカス団員は隙だらけ (ページ20)

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母親ってなにページ20

トレイセンパイはそのままハーツ…はーつらぶりー？寮の厨房に行き、ブルーベリーのタルトをご馳走してくれた。ちなみにブルーベリーもタルトも食べるのは初めてと言ったらめちゃくちゃ驚かれた。

「トレイ、今度の"なんでもない日"についてだけど…おや、お客さんかい？」

そうしていると、ここの寮長がやってきた。鮮やかな赤髪だったからよく覚えてる。

『ふァ、おふぁあひふぇあふ』

「食べながら喋るんじゃない。法律以前にマナー違反だよ」

『うィふ』

ルールやマナーに厳しい人という話は本当らしい。トレイセンパイが窘めてくれなかったら何があったか知れたもんじゃない。

「そうだ、リドルも食べるか？ブルーベリーがちょうど食べごろだったんだが」

「せっかくだけど僕は遠慮するよ。これから課題を終わらせなければいけないし」

『えェ～、寮長さんも一緒に食べましょうよォ。こんな美味しいものをみすみす逃しちゃうなんて』

「う…いやでも、一度妥協を知ればいずれ惰性に繋がるものだし」

『妥協じゃないッスよォ～！ホラ、頭使うときって糖分がいるんでしょ？ひと切れくらい食っといた方がもしかして課題も進みが良くなるんじゃないスかね』

「今日なら食べても法律違反じゃないだろ？俺もぜひリドルからの感想が欲しいんだけど」

まだ少し寮長さんは「ぐぬ…」と葛藤していたが、やがて「糖分を補うため」と自分に言い聞かせながらスツールに座った。

きっとトレイセンパイは気付いてる。タルトを見た寮長さんの目が一瞬輝いたことに。

現に寮長さんは一口食べるごとに表情が和らいでいってるし、それを見るトレイセンパイの顔はいつか見た「母なるクイーン・グリムヒルド像」だったっけ、少女を抱きしめる美しき女王の表情とよく似ていた。

というか、トレイセンパイ全体的に母親っぽくない？

めちゃくちゃ美味しいタルト作ったり、相手のプライドを傷つけない言い方してたり、こうやって優しい眼差しで見守ってたり…

あと本人曰く寮生の歯磨きチェックしてるらしいし。

『もうトレイママじゃねェ？』

「ン"ッ」

「え」

寮長さんがタルトを喉に詰まらせ、トレイセンパイも眼鏡が少しずり落ちた。

独り言が2人にも聞こえてしまったらしい。

慌てて寮長の背中をさすり紅茶を差し出すトレイセンパイを、親子みたいだなとぼんやりと見ていた。

………………ここ、たまに通おう。